ニューヨークのメトロポリタン美術館の衣装研究所(Costume Institute)が主催するファッションの展覧会「Heavenly Bodies: Fashion and the Catholic Imagination(天国のボディー:ファッションとカトリックのイマジネーション)」が5月10日から10月8日まで一般公開される。
展覧会では、カトリックがどのようにデザイナーに影響を与えてきたのかを掘り下げる。今回のテーマになった理由について、アンドリュー・ボルトン(Andrew Bolton)衣装研究所キュレーターは、「4年前にこの展覧会の計画が発進した時は、イスラム教、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教、カトリックを含むキリスト教の5つの宗教をテーマにすることを考えていた。だが、展示する作品のデザイナーの多くはカトリックで、他の4つの宗教を入れることは形だけの平等主義のようにも感じた。この選択を誤解しないでほしい。カトリックの教義の根幹は伝承の歴史だ。物議を醸すのは承知の上だ。このテーマを設定した目的は、長年積み重ねられてきたカトリックの教義をひもとくことではない。カトリックの信条の美に満ちた一面に焦点を当てることだ」と説明した。
展覧会では、「リック・オウエンス(RICK OWENS)」「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」「ランバン(LANVIN)」「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」「トム ブラウン ニューヨーク(THOM BROWNE NEW YORK)」「シャネル(CHANEL)」「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「A.F. ヴァンデヴォースト(A.F. VANDEVORST)」「ロダルテ(RODARTE)」などのブランドの他、クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balanciaga)、マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)、リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)、マダム・グレ(Madame Gres)、ティエリー・ミュグレー(Thierry Mugler)、ロベルト・カプッチ(Roberto Capucci)といったデザイナーが手掛けた作品が展示される。
特にボルトンが見どころとするのは、叔父が教区神父だったこともあって毎日のようにミサに通い、聖職に就くことを考えたこともあったというクリストバル・バレンシアガが手掛けたスペインの聖歌隊、オルフェオン・ドノスティアラ(Orfeon Donostiarra)の衣装だ。中世彫刻ホール(Medieval Sculpture Hall)のバルコニーにずらりと並べられたこの聖歌隊衣装はバレンシアガが1945年にデザインし、64年にも再デザインを手掛けたもので、いまでもこの聖歌隊が同衣装を着用している。その他、バレンシアガが手掛けたウエディングドレスや、聖母子像と並べて展示された「ヴィクター&ロルフ」の99-2000年秋冬オートクチュール・コレクションのドレスも見どころだという。
さらに今回の展覧会で特筆すべきは、バチカンの協力も得ていることだ。ローマ教皇の側近の同意を得るために12回にわたってバチカンに通ったというボルトンは「オープニング・パーティーを主催するアナ・ウィンター(Anna Wintour)米『ヴォーグ(VOGUE)』編集長は、メトロポリタン美術館はバチカンと同じくらい複雑だといつもジョークを言っているが、われわれはその足元にも及ばない。バチカンと比べたらメトロポリタン美術館は幼稚園のようだ」と笑う。1万8000個のダイヤモンドが施されているという教皇冠など、バチカンの了承を得た展示品はケースに入れられ、個別に展示される。