三越伊勢丹ホールディングスは、2021年3月期に掲げていた連結営業利益350億円の計画を1年前倒しする。昨年来実施してきた構造改革によって、予想以上に早く収益性が回復したため。達成すれば三越と伊勢丹の統合以来の最高益になる。杉江俊彦・社長は「前期(18年3月期)でほぼウミを出し切った」と総括し、今期(19年3月期)はデジタル事業のシステム構築、伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店の大型改装などへの投資を増やす。
9日に発表した前期業績は、売上高が前の期に比べて1.2%増の1兆2688億円、営業利益が同2.0%増の244億円、純損益が9億6000万円の赤字(前の期は149億円の黒字)だった。減損損失110億円を特別損失として計上したため、8期ぶりの最終赤字になったが、販管費のコントロールなどによって営業利益は増益を確保した。18年3月の伊勢丹松戸店の閉鎖や子会社マミーナの清算、在庫適正化など効果が出始める今期は、営業利益で同18.8%増の290億円を見込む。
回復を受けて今期はデジタル事業や基幹店の改装などに対し、前期比136億円増の520億円を投じる。このうち200億円をつぎ込むデジタル事業は杉江社長が自らチーフ・デジタル・トランスフォーメーション・オフィサー(CDTO)の役職を兼任し、改革の旗を振る。今秋にアプリを立ち上げるのを手始めに、デジタルを通じた顧客登録を拡大し、データ管理や情報発信の基盤を作る。自社ECなどデジタルを通じた会員は現在約200万人だが、これを21年3月期までに350万人に増やす。
現時点では内容は明かせないとしながらも、デジタルを活用した7つの新事業を検討している。杉江社長は「当社はこれまで慎重にやりすぎるきらいがあったが、今後は外部の知見も生かし、小さく立ち上げて、スピードを重視して進める」と語り、トライ&エラーを織り込みながら、柔軟に事業化できるものを見極める方針を示した。
伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店の大型改装は今期から来期にかけて実施する。新宿本店には100億円、日本橋本店には150億円を投じる。新宿店は今期に紳士ファッションや紳士雑貨、来期は化粧品、時計、宝飾などの売り場で進める。特に「新宿店の強みであり弱みである化粧品は大きなテーマ。現在、客数が増えすぎて満足できるおもてなしができない。(ブランドからの)増床してくれという要請も多い」。婦人服売り場の面積を削り、化粧品を含めた他の売り場を広げることになる。