ファッションECモール「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を運営するスタートトゥデイは4月、2019年3月期の通年計画として、これまで縮小傾向にあったBtoB事業(ブランドの自社EC支援)の再強化を打ち出した。新型“ZOZOSUIT”発表の陰にかくれ、注目されることの少ないBtoB事業だが、今後の成長戦略の1つと位置付けられており、1年目で商品取扱高100億円、3年目で300億円を目指すという。今後のBtoB事業再強化の裏にある狙いについて、BtoB事業を統括する子会社アラタナの濵渦伸次・社長に聞いた。
WWD:あらためて、15年にスタートトゥデイへ参画した経緯とは。
濵渦伸次・社長(以下、濵渦):07年に自社EC作成ツールとして起業をしたが、自社ECの集客手段として、メディアが不可欠だと考えてきた。転機はハニカムを買収したタイミングで、うまくいかずにメディアコマースの難しさを感じていた時だった。前澤(友作スタートトゥデイ社長)から自社倉庫“ZOZOBASE”を見せてもらい、「これはかなわない」と直感した。ここまで巨大な倉庫を持っていて、なおかつクオリティーの高いEC事業を手掛けていたからだ。グループに入ることで、ZOZOBASEを活用してブランドの自社ECを盛り上げられると考えた。創業以来やることは変わっていないが、参画によってやり方が変わっただけだ。
WWD:スタートトゥデイ参画後のアラタナの役割は?
濵渦:当時スタートトゥデイとしてもスタートトゥデイ・コンサルティングという部門でブランドEC支援をやっていたが、やはり「ゾゾタウン」を優先するためにBtoB事業をストップし、ほとんどのECとの契約を解消することになった。参画したのがまさにそんなタイミングだったので、ここ3年間は残ったブランドECの支援、つまり現状維持に注力してきた形だ。
WWD:なぜ今、縮小傾向にあったBtoB事業を再強化することになったのか。
濵渦:スタートトゥデイは20年3月期までに今の倍近い商品取扱高5080億円という目標を掲げた。これを達成するためには「ゾゾタウン」だけでもプライベートブランド「ゾゾ」だけでもダメで、ブランドの自社ECも含めたファッションEC自体を企業として支援していく必要がある。そのためにも、これまで“おまけの事業”とも考えられていたBtoB事業を将来的には「ゾゾタウン」に並ぶ主力事業にしていかなければいけない。
WWD:「ゾゾタウン」での売り上げ自体、ある程度の限界が見えてきたということか。
濵渦:ファッション市場は右肩さがりで、特にユーザーの買い方が分散してきた。今やSNS経由でブランドECへたどり着くこともあるし、購入場所はユーザー自身が選ぶものになった。だから「ゾゾタウン」だけに顧客を囲い込むべきではないと感じた。そうした時にスタートトゥデイとしてできることは、これまで蓄積したデータという資産を惜しみなく出していこうという結論だった。
WWD:スタートトゥデイはBtoB再強化を通じて何を目指すのか。
濵渦:モール運営としてのスタートトゥデイではなく、仕組みもデータもオープンにした物流・情報インフラ企業へと移行をする。そのためには自社EC支援の強化が欠かせない。この1年間スタートトゥデイにしかできない自社EC支援のあり方を考えてきたが、ZOZOBASEという物流拠点を使ってもらうことと、圧倒的な顧客&購買データを提供することだと思い至った。誰もが「ゾゾタウン」に来てほしいのではなく、モールでも自社ECでも、買い方はユーザーが決めればよくて、どこで売れてもZOZOBASEから商品を出荷できるようなファッション業界のインフラを作ることに徹する。データに関しても、ようやくこれまでためてきたデータを活用できるフェーズに入ったと思う。今後は「ゾゾタウン」の優良顧客を自社ECへと送客する広告事業なども考えている。
WWD:アラタナとしては大きな事業拡大になると感じるが?
濵渦:これまで自社EC支援が一見「ゾゾタウン」とは競合するように感じることもあり、グループとして取り組むことはなかったが、今後はグループ全体で自社EC支援をしていく。ツケ払いという仕組みも2年間でようやくコントロールができるようになったことで、外部へと提供していけるだろう。もちろん、単純なブランド数だけでなく、1店舗ごとの売り上げを上げていくことにも注力する。
WWD:では、今後アラタナはどこを目指すのか。
濵渦:まず、スタートトゥデイとしては今後、単なるモール運営企業から情報と物流のインフラ企業というレイヤーへ移行する。われわれは情報と物流という武器を使い、11年間行ってきた自社EC支援をさらに広げていくことが使命だ。「ゾゾタウン」だけが儲かればいいという時代は終わった。今後はスタートトゥデイを通じてファッション市場全体を活性化していきたい。