自宅で豆を挽き、ハンドドリップでコーヒーを淹れる人が珍しくない時代。先日、沖縄県内の珈琲農園を訪れ、コーヒーは農産物であるということを体感した私は、どのような過程を経て生豆が茶色のコーヒー豆になるのかに興味が湧き、焙煎人・中川ワニさんの珈琲豆の手焙煎(ハンド・ロースト)教室に参加した。
手焙煎に必要な道具はザル、ガスコンロ、攪拌棒のみ。まずは、生豆を洗ってザルに取り、コンロの火の上でひたすら素早くかき混ぜ続ける。この時、ザルを火から離したり近づけたりしながら加わる熱をコントロールすることがポイント。乾草のような青々としたにおいが、若い果物の甘酸っぱいにおいに変わり、やがて甘く、煎り大豆のような香りを経てビターな甘い香りへと変化する。緑色の豆はオレンジから赤茶色、茶色へと変わる。コーヒー豆の香りと色の美しい変化を目の当たりにし、「“焙煎”も料理をするように五感で感じながら楽しんで欲しい、というワニ氏の言葉の意味を理解した。
でき上がったコーヒー豆を自分で挽き、ドリップして飲んだ時、自分の身体に取り入れるものなのに、あまりにもコーヒーについて無知だったことを痛感した。1杯のコーヒーがどのように作られているのかを体験し、あらためて、コーヒーはファッションや流行ではないと思う。美味しいか、好きかの判断の基準は自分自身が持つべきだ。手焙煎教室に参加するまで、手焙煎はマニアのための楽しみ方だと思っていたが、参加してみて「コーヒーは面白い!」という素直な気持ちを抱いた。コーヒーを通し東南アジアの人々と交流を深めたワ二さんは、現地の母親たちが各家庭の我が家のコーヒーを自慢し合う姿を見て、コーヒーはもっと自由に楽しむものだということを学んだという。その自由さが生み出すワクワク感に出合えるのが、ワニさんの手焙煎教室の魅力だ。
手焙煎に興味が出てきたあなたにぴったりの本がある。日々料理をするような日常の目線でコーヒーの調理法を記したワ二さんの著書「家で楽しむ手焙煎(ハンド・ロースト)コーヒーの基本」(リトルモア)だ、同書はワニさんが焙煎人として培ってきた長年の経験を、ザルで行う手焙煎に落とし込み具体的にまとめたもので、シンプル且つわかりやすいマニュアル本。読者にとって自分の味を探す道しるべになるうえ、時間経過の様子を記録した写真も多いので、初心者にもオススメしたい1冊だ。