ジン・コー=オリジナル社創設者兼最高経営責任者:1980年マレーシア生まれ。カリフォルニア大学バークレー校法学部で学び、19歳にして学生向けクラウドデータサービスを立ち上げた。その後もWi-Fi関連技術などBtoB向けのクラウドサービスを次々にスタートし、2013年に「オリジナルスティッチ」をテストローンチ。15年にオリジナル社を創業した。現在はシリコンバレーと東京に拠点を置く。「オリジナルスティッチ」の会員数はグローバルで50万人(うち、日本国内では20万人)
米国シリコンバレー発のオーダーシャツ専門ECサイト「オリジナルスティッチ(ORIGINAL STITCH)」を運営するオリジナル社が、A4用紙を衣服の上に置き、写真を撮るだけでその寸法を測定できる画期的なAI採寸アプリ「メジャーボット(Measure Bot)」をローンチした。もともとカスタマイズシャツブランドとしてスタートした同社だが、今回の「メジャーボット」をはじめ、全身サイズをたった2枚の写真から採寸できる「ボディグラム(Bodygram)」といったAIサービスを立て続けに発表している。同社が目指す企業像から今話題の“採寸テクノロジー”まで、来日中のジン・コー(Jin Koh)創設者兼最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。
WWD:あらためて、オリジナル社創業の経緯とは?
ジン・コーCEO(以下、コー):これまでテック系のサービスばかりを手掛けてきたが、ファッションはこれが初めてだった。ファッション業界は消費財の中でも大きなシェアを占めているにもかかわらず、テクノロジーがほとんど導入されていない。パーソナライズ、カスタマイズという概念が広がりはじめた中で、ファッションはまさにホワイトスペースだった。
WWD:最初のプロダクトはなぜオーダーシャツブランドだったのか。
コー:誰もがパーソナリーティーを持っていて、着るものによって誰もが自分のスタイルを表現することができる。“WEAR YOUR STORY”をコンセプトに、自分自身でシャツのデザインをすることで、自己表現をしてもらいたいという願いがあった。商品としてシャツを選んだのは、自分がほしいと思ったから。シャツは既製品を買うかテイラーに依頼するかの2択だが、オーダーメードでシャツを作るには費用も時間もかかってしまう。テクノロジーでこれを解決できると考えた。
WWD:「オリジナルスティッチ」の生産体制は?
コー:オンライン発注後、10日〜2週間で商品が届く。この納期を実現するためには、簡単に自分のサイズで商品を注文できるアプリ技術に加えて、ユーザーが作成したデータをリアルタイムに生産に回すことができる工場の体制が必要だった。シャツの生産は全て日本で行っており、現在はフレックスジャパン、シャツメーカーの山喜と提携し、世界に向けて発送をしている。
WWD:これまでアパレル経験がない中で、日本で工場との生産体制を構築するのは大変だったのでは?
コー:大変だった。当時、2〜3週間はフレックスジャパンに寝泊りして生産体制を学んだほどだ(笑)。生産について知ることで、どのように当社のサービスを連携させればいいかがわかり、最短で生産を行える仕組みを共同で生み出すに至った。工場とのチームワークはとても重要だ。
READ MORE 1 / 2 オーダーシャツに次いで、なぜ採寸アプリ?
「メジャーボット」の利用画面。実際にジャケットを採寸してみると、すぐに測定値が表示された
WWD:オーダーシャツブランドに次いで、アイテム採寸サービス「メジャーボット」を作ったのはなぜ?
コー:フリマなどのCtoCにおいて、アイテムの採寸技術が大きなポテンシャルを秘めていると感じたからだ。商品をフリマに出品する際、売り手買い手ともに正確なサイズを知るのは難しい。写真を撮るだけでサイズを自動データ化することができれば、そのデータをコピーするだけで簡単に出品の手助けができるだろう。今後は対企業向けのささげ(撮影・採寸・原稿)サービスとしても使えるのではないだろうか。
WWD:今後はフリマ企業などとの連携もありえる?
コー:まだ具体的な話をどこかとしているわけではないので、個人的な見解だが、われわれのテクノロジーが他のフリマとつながれば非常に便利だと思う。
WWD:つい先日、全身サイズを2枚の写真だけで採寸できる「ボディグラム」というサービスも発表したばかりだが?
コー:こちらは発表までに3年かかった。自分の全身サイズを知るのは実は非常に難しい。店頭でプロに採寸をしてもらったり、3Dスキャン機器を使ったり、ボディースーツを使ったりとさまざまな方法があるが、将来はハードウエアを使うことなく、スマホこそが採寸マシンになると思う。無料アプリをダウンロードするだけで、誰もが自分の全身サイズを簡単に知ることができるのだ。「ボディグラム」では2枚の写真を撮影して身長を記入するだけで全身40カ所のサイズをAIが瞬時に提案してくれる。現状でも平均誤差1cm程度まで精度を上げられたが、夏ころに本格ローンチをしたいと考えている。
WWD:これらのサービスは無料だが、収益化はどうするのか。
コー:われわれは“プロダクトファースト”を掲げている。一番使いやすい形での製品化を最優先に考えており、現段階でビジネスモデルはフィックスしていない。まずはたくさんの人に使ってもらうことを目標に開発をしている。
WWD:スタートアップ企業にしては成長速度が遅いようにも感じる。
コー:たしかに、早めに回収したい気持ちもわかるが、われわれは長期的に物事を考えている。何よりも顧客優先であること、そしてイノベーションのためには投資や失敗を恐れずに挑戦したいということ。だからこそ、ローンチ、マネタイズを急がない。株主もこうした経営理念を理解してくれている。サービスに価値があり、何千万、何億人というユーザーが作ってくれることは、目先の利益よりも大切なことだ。
WWD:これらのサービスはファッション以外でもさまざまな可能性があると思うが、そうした応用は考えているか。
コー:もちろん、さまざまな業界に対して、可能性があるだろう。例えば、毎月写真を撮り続ければヘルスケアにも使えるだろうし、体に関係する家具や自動車などにも応用ができる。ファッションに限ってサービスを使おうとは考えていない。
READ MORE 2 / 2 マスカスタマイズ市場の未来をどう見るか
「ボディグラム」でテスト採寸を実施
「ボディグラム」のテスト版で採寸した結果。実寸値とは1〜3cmほどの誤差だった
WWD:アメリカではマスカスタマイゼーション市場が盛り上がっていると聞く。
コー:非常に大きな市場だ。誰もが個性を重要視する時代になるだろう。一方で、カスタマイズにはフィットとデザインという2つの意味がある。今あるカスタマイズ技術はどちらかに特化していることが多いが、われわれは両方を取りにいきたいと考えている。
WWD:日本で採寸サービスといえば“ZOZOSUIT”が話題だが、競合と感じているか。
コー:彼らは正しい方向に進んでいると思う。競合他社というより先駆者として、尊敬している。イノベーションのためには投資をして失敗してもそこから新たな学びを得ようとする姿勢も素晴らしい。未来的には新しいテクノロジーを生み出すことになるだろう。全ての企業がそこに向かうべきだ。
WWD:オリジナル社として、さまざまなサービスをまとめて、どのような未来像を描くのか。
コー:「オリジナルスティッチ」を知っている人からすればカスタムシャツ企業と考えられるが、実際にはAIプラットフォームカンパニーだと自負している。ファッションのためのAIテック会社だ。「オリジナルスティッチ」はAIプラットフォームの一部であるし、アプリもその一部でしかない。サイズという世界共通の課題に対して、プラットフォームビジネスとしてさまざまなサービスを提供しているにすぎない。世界最大のファッションAIテック企業になることがゴールで、今後3〜5年で日本人口の半数が「ボディグラム」を使ってくれるような未来を目指したい。
WWD:現在のチームメンバーはどのくらい?
コー:アメリカに8人、日本では7人だ。ほとんどがエンジニアだが、これから毎月人員が増えるだろう。インスタグラムもワッツアップも買収された際には少数精鋭メンバーだったが、その後爆発的にサービスを伸ばしてきた。これらに共通するのは、とても小さなチームが大きなインパクトを与えたこと。そして全てがソフトウエアを開発した企業であることだ。われわれも“マジック・オブ・ソフトウエア”を起こしたいね(笑)。