ニューヨークを拠点に活動する現代アーティストのダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)が、2年ぶりとなる個展を東京・渋谷のナンヅカ(NANZUKA)と六本木のペロタン東京(PERROTIN TOKYO)で6月30日まで開催中だ。
アメリカ・オハイオ州生まれのダニエルは、“フィクションとしての考古学(Fictional Archeology)”をコンセプトに彫刻作品からペインティング、インスタレーション、映像作品まで手掛ける38歳のアーティスト。生まれながらに色覚異常(色盲)を持つことから、作品の多くが白と黒を基調とし、素材に石灰や火山灰、ガラス、黒曜石を使用するなど、デカダンな作風で知られる。しかし、近年では色覚補正メガネをはじめとした医療の発達とスタジオチームの手助けもあり、フルカラーの作品も発表。「パブリックスクール(PUBLIC SCHOOL)」のランウエイセットを手掛け、「アディダス オリジナルス(ADIDAS ORIGINALS)」とコラボレーションしたスニーカーを発表するなど、ファッションブランドやデザイナーとも関係が深い。
今回の2つの個展では、ナンヅカが「アーキテクチャー・アノマリーズ (Architecture Anomalies)」と題した白が基調の立体作品を、ペロタン東京が「カラー・シャドウ(Color Shadows)」と題した色味のある彫刻作品群を展示することで、相反するスタイルを表現している。開催に先立ち、前日にダニエル本人による作品解説が行われた。
Architecture Anomalies
建築にフォーカスしたナンヅカでは、壁から生える腕や壁と同化した人間をはじめ、もともとそこにあったかのような作品など8点が展示される。「“建築物が動く”というとき、世間一般では地震などネガティブなことが多い。しかし、ここでの“建築物が動く”はポジティブな意味。これらは白い壁さえあればどこでも展示できるように、裏には磁石が付いていて、白く塗ればいいだけになっている」。
また、世界最大級の現代アートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ 2016(Art Basel Miami Beach 2016)」でも展示したバスケットボールモチーフの彫刻作品が並ぶ。「『アート・バーゼル』ではブルーを基調としたものだったが、今回はホワイトを基調に新たに制作した。本物のバスケットボールから鋳造し、火山灰と水晶、そこにワックスと水を注入する。すると油と水の関係で出来上がり時にボロっとどこかが崩れる。全て偶然で出来上がるから、『アート・バーゼル』の作品とは全く違うものだと思ってほしい」。
Color Shadows
2部屋で構成されるペロタン東京では、「“古代の腐食した世界観”を表現したかった」とダニエルが話すように、入ってすぐの大部屋の壁に石灰や火山灰に水晶を混ぜた作品を撮影した作品がプリントされている他、同様の素材で制作されたクマのブロンズなどを展示する。クマをはじめ、壁に掛けられたバッグやキャラクターのワッペンを拡大したブロンズは、それぞれ着色がされている。「私は色覚異常のために色がわからない。なので着色は、キアロスクーロ(陰影法)といって1点の光源から影を発生させて描く絵画の技法を応用し、影をグラデーションにみたててスタジオのスタッフと色を確認しながら行った。バッグは学生時代に実際に使っていたものから鋳造したのだが、鋳造の過程でオリジナルは壊れてしまった。だが、鋳造したことで思い出のバッグを半永久的に残すことができた」。
会場奥の小部屋には、日本からインスピレーションを受け、日本庭園にオブジェを描き足した絵画や枯山水をモチーフにした作品など約10点が展示されている。「私の妻が日本人とのハーフなので、日本には10年近く前に初めて訪れた。その時、日本庭園を知って作品にしたいと思い立った。日本庭園は毎日手入れされているが、それはその日の一時的なものだと思われる。しかし、毎日行われているということは、半永久的とも捉えることができる。私の作品の“崩れそうで崩れない、壊れそうで壊れない”といった要素にこれがピッタリだった。庭園にオブジェクトを書き足した絵画では、古代の中の未来を表現している」。
「『ライカ(LEICA)』のカメラとマイクの化石は、実際にはありえないものだが、本物の石を使うことで“フィクションとしての考古学”を表現している。架空の惑星を鋳造したものは、先ほどの部屋で見たブロンズと同じようにキアロスクーロで着色している。作るには鋳造から表面の彫刻までを含め、数カ月を費やした。枯山水をモチーフにした作品は、構想のみだと1時間だが、出来上がるまでには数週間かかっている」。
さまざまな作品の解説を終えた後、これらを通して伝えたいことについて聞かれると、「よく作品の意味を教えてほしいと言われるが、いつも具体的な考えや伝えたいことが明確にあるわけではない。むしろ人々が私の作品を見て考えることへのきっかけになってほしい。日本庭園をモチーフとした作品は日本人には馴染みがあるが、日本人以外はなにかと考える。この“新しいものを前にして人々がなにかを考えること”こそが、私が願うものだ」と答えた。
また、25日に発売される相澤陽介「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」デザイナー手掛ける「ハンティング・ワールド(HUNTING WORLD)」とのコラボコレクションについては、「ブランドの53年の歴史の中で初のアーティストコラボは本当にうれしい。私がブランドと協業するときは、まず削ぎ落とすことを考える。すると今回は、ホワイトが頭に浮かび上がってきた。だから今回のコレクションは、オールホワイトのいかにも自分らしいコレクションになった」とコメント。さらに「ちなみにいまかぶっているキャップは、『ハンティング・ワールド』とのコラボアイテムではなく、私のスタジオのキャップ。大親友で『キス(KITH)』のオーナーのロニー・ファイグ(Ronnie Fieg)が作ってくれた。前にごく少数だけ売ったレア物だ、いいだろ?」と白い歯をこぼし話してくれた。
なお、両個展ともに入場は無料、撮影も可能となっている。
■Architecture Anomalies
日程:5月23日~6月30日
時間:11:00~19:00
定休日:日・月・祝祭日
場所:NANZUKA
住所:東京都渋谷区渋谷2-17-3 渋谷アイビスビル 地下2階
入場料:無料
■Color Shadows
日程:5月23日~6月30日
時間:11:00~19:00
定休日:日・月・祝祭日
場所:PERROTIN TOKYO
住所:東京都港区六本木6-6-9
入場料:無料