PROFILE:共にオーストラリア出身で、7歳と10歳の娘をもつ母親。デザイン事務所でブランドマネジメント業務に携わる一方で就業時間後はフリーランスのグラフィックデザイナーとして活動していたブリジット・マガウアンと、ファッション業界のリクルート業務を行っていたデズリー・メイドメントは共通の友人を通して知り合う。2013年に「ステート オブ エスケープ」創業 PHOTO BY SHUHEI SHINE
2013年に誕生したオーストラリア発「ステート オブ エスケープ(STATE OF ESCAPE)」のバッグはネオプレン素材が特徴。アクティブな女性が必要なものを全て詰め込むことができるほど、バツグンの収納力がある一方で、超軽量だ。さらには洗濯機で丸洗いできるから、ホワイトをはじめとする薄いカラーを選ぶ女性が多いのにも頷ける。最近、このバッグを持っている男女を都内でたびたび見かけるようになった。
そんな「ステート オブ エスケープ」は、デザインを担当するブリジット・マガウアン(Brigitte MacGowan)とビジネスを担当するデズリー・メイドメント(Desley Maidment)の2人が立ち上げたブランドだ。現在はオーストラリア以外にアメリカ、アジア、ヨーロッパでも展開しており、創業者2人を含めた7人の小さなチームでブランドをここまで大きくした。「よく姉妹かと聞かれることがある」と笑う2人は、インタビューを始める時も「Sure(もちろん)!」と息ピッタリだった。それぞれが異なる業界で働くワーキングマザーだった2人がブランドを立ち上げた経緯とは?
WWD:2人の出会いは?
創業者デュオのデズリー・メイドメント(左)とブリジット・マガウアン PHOTO BY SHUHEI SHINE
ブリジット・マガウアン(以下、ブリジット):同じ年回りの娘が2人(7歳と10歳)いて、共通の友人を通して知り合った。家族ぐるみで仲がいいの。
デズリー・メイドメント(以下、デズリー):家もとても近いのよ。
WWD:ブランドを立ち上げたきっかけは?
ブリジット:2人ともビジネスを立ち上げることやデザインの仕事に興味があったから、「どうやって2人でビジネスができるか」といった会話をよくしていたわ。そこから実際に商品開発に着手したのが6年前。1年間の開発期間を経て、13年にブランドを立ち上げたの。友人のカメラマンに試作品を渡したら、幸運なことに、彼女がオーストラリアでもトップクラスのとあるファッションデザイナーの家で撮影をした時に、そのデザイナーの目に留まって、それがブランドの設立につながったの。
WWD:なぜバッグを選んだ?
ブリジット:もともとは別のビジネスを考えていたの。その過程でネオプレン素材に出合って、素材の手触りだったり、“すごく軽い”という点をとても気に入って、この素材で何が作れるかを考えたときにバッグに行き着いた。
WWD:バッグの前に考えていた「別のビジネス」とは?
ブリジット:シューズだった。すぐボツになったけど(笑)。でも、「ネオプレン素材のシューズ」というひらめきがなければバッグに行き着かなかったから、結果的にはよかったと思っている。
WWD:ネオプレン素材を選んだ理由は?
ブリジット:とても軽くて柔らかいのに、きちんとバッグの形を保つ。これを両立できる素材はなかなかないの。さらに洗濯機で洗えるしね。
WWD:素材に開けた穴と穴の間をカットすることにもこだわったとか?
ブリジット:そう、生地をカットした断面がギザギザになってしまうのを避けるために穴と穴の間を切ることにとにかくこだわったの!だから今でも生地は職人が手作業で裁断しているわ。素材がとても柔らかいから、機械で切ることはとても難しい。だから裁断も、組み立ても全て手作業。レザーのように昔からある素材ではないから、作業してくれる会社を探すのも大変だったわ。
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「ステート オブ エスケープ」のバッグはカジュアルからドレスまで服を選ばずコーディネートできる
「ステート オブ エスケープ」のバッグはカジュアルからドレスまで服を選ばずコーディネートできる
WWD:2人の役割分担は?
デズリー:ブリジットがデザイン担当で私はビジネス面を担当している。私たちは密に連携して仕事をするし、全てを2人で相談するけれど、ブリジットはクリエイティブだからデザイン面を、私はビジネスが得意だからそっちを担当しているの。
WWD:デズリーはビジネスをどこで学んだ?
デズリー:大学で経営学を専攻していて、バンキング業務やファッション業界のリクルート業務を行っていたの。デザイナーから販売員までさまざまな人材をあっせんしてきたわ。だからファッション業界のことはよく理解していたし、だからこそ絶対この業界で働くまいと思っていたのだけど(笑)。いずれにしても、これまでの経験のおかげで、ブランドの育て方や販路戦略、製造スピードなど、今のビジネスに必要なことが分かるの。
WWD:デザイン面でもアドバイスすることはある?
デズリー:もちろん。全て共同作業よ。新しいデザインやサイズをブリジットが考えるときには、売れるための価格帯はどうか、どういった販路で売るべきか、色は何がベストか、オーストラリアではどうか、また、海外ではどうかとかを常に考える必要があるから、2人で相談して決める。
アイコンバッグ“エスケープキャリーオール”(4万3000円)の新色“ブラッシュカラー”は、創業者のデズリーも愛用している
WWD:バッグのデザインに対するこだわりは?
ブリジット:市場にないユニークなアイテムを作りたいという思いがベースにある。私はファッション畑の人間ではなく、グラフィックデザイナーだったので、独特の視点からデザインについてアプローチできたのではないかと自負している。最もこだわったのはバッグの形。あとはミニマムであること。私自身、装飾があまり好きではなくて、装飾を施すのであればそれぞれに意味があるべきだと考えている。シンプルな中に美を見出したかったし、バッグの内側も外側と同じように美しくしたかった。これらを同時に解決するデザインは何か?ということにこだわったから、開発に12カ月もかかったの。
WWD:外側と内側の色合わせが特徴的だが、ブリジットが決めている?
ブリジット:ベーシックの色味以外は別注アイテムとして作っていることが多い。日本で扱っている40%くらいは別注で、こういった対応はほぼ日本だけ。
デズリー:でもそれはパートナーと組んでやることの醍醐味だと思っているし、日本のディストリビューター(サザビーリーグ)などから日本人の消費動向や好みを教えてもらうことで、日本の消費者に好まれるアイテムを提案できる。日本の女性は色味のあるバッグを持つことに抵抗がないようだ。
WWD:男性が使用している光景もよく見かける。
ブリジット:想定していなかったけれど、興味深いことに日本では男性にも使ってもらえているみたいね。ユニセックス市場での買い付けも多い。シンプルだからこそ性別の境界を超えて愛されているのだと思う。
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ブリジット・マガウアン創業者 PHOTO BY SHUHEI SHINE
WWD:ターゲット層は?
ブリジット:年齢的には20代以上と幅広いのに対して、どの年代でも同じようなタイプの女性が購入している。すなわち、デザインにこだわりを持ち、美しいものが好きでファッション感度の高い、旅行することも多い、忙しくアクティブに生きている女性。「ステート オブ エスケープ」のバッグは最終的にあらゆる場面で使ってもらえるから、ある人は“80%バッグ”と言っていたわ。
WWD:SNSなどでは小さな子どもがいる母親が持っているのをよく見かける。
ブリジット:お母さんはたくさんの物を持ち歩かないといけないから(笑)。
デズリー:レザーバッグとかは、それ自体ですでに重いものもたくさんあるけれど、たくさん入るのにバッグ自体がとても軽いことが、母親から支持されるポイントだと思う。
ブリジット:あとは洗濯機で丸洗いできるところもね。オーストラリアでもよく小さな子どもを持つ母親が買ってくれるけれど、彼女たちに聞くと、“マザーズバッグっぽくないところ”が購入の決め手になったらしい。女性にとって“マザーズバッグを持ち歩く”という状況は決しておしゃれではないし、うれしいことでもないの。母親であっても“自分が好きだから選んだバッグ”を持ちたいはず。一度もマザーズバッグとしてプロモーションしたことはないけれど、お母さんたちはそういう思いもあって買ってくれている。
WWD:母親としての経験はバッグのデザインに活かされている?
ブリジット:そこはあまり意識していない。“母親としての経験”というよりは、子どもを持つことも含め、アクティブな人生を生きてきたという経験から生まれたの。子どもは一側面にしかすぎないわ。
デズリー・メイドメント創業者 PHOTO BY SHUHEI SHINE
WWD:母親兼ビジネスウーマンの2人も多忙なのでは?
デズリー:多くの女性がそうだと思うわ。仕事も充実しているし家族も大切で、うまくいく時もあればいかない時もある。絶対的なルールもないし、私もブリジットも1つのことに限定しない人生を生きたかった。全面協力してくれる家族もいるし、お互いのサポートもよくするの。
ブリジット:娘たちも同行できるときには仕事に連れていくの。彼女たちも仕事をする上で大切な要素。今でも毎晩、「仕事どうだった?」と聞いてくれるの。
デズリー:娘たちは街でバッグを見かけると「ママ、バッグを持っている人がいるわ!」と教えてくれるの。彼女たちは私たちの仕事をとても誇らしく思ってくれていて、道でいくつ見つけられるかを競い合うゲームをしているわ。大声で叫ばれると、とても恥ずかしいんだけどね(笑)。
WWD:オーストラリアが最大の市場?
ブリジット:これまではそうだったけれど、日本市場も追いつく勢いを見せている。日本の顧客にはブランドのストーリーや価値、品質を理解してもらえていて、それが日本市場での成功につながっている。そういう価値を理解してくれる日本人の気質に合致したのだと思う。
WWD:メーンの販売チャネルはEC?
デズリー:両方重要だと考えている。オーストラリアは広いから、そういう意味ではECはとても重要。一方で、消費者は色味を確認したり、実際触ってみたりすることも大切だと思っているし、きれいに陳列されたスペースはブランドのストーリーを視覚的に伝えやすいから、リアル店舗で販売することも重要。特にネオプレン素材のバッグというのは新しいから、初めて見る人にとっては触れないと心配なの。そういう意味では、その懸念を解消する方法として実店舗で販売することが効果的だったりする。
デズリー:小売りや卸の市況は常に変化していて、ブランドはその中で絶えず最善の方法を模索し続けなければいけないから、どこで、どうやって、何を、どれだけ売るか、ということについてはオープンマインドでいるべき。
終始笑顔が絶えないブリジット・マガウアン(左)とデズリー・メイドメント PHOTO BY SHUHEI SHINE
WWD:進出・拡大したい市場は?
デズリー:アメリカではすでに取り扱いがあるけれど、とても大きい市場なので引き続き拡大していきたい。スカンジナビア地域は日本と同じくらい成長しているから、欧州もシェアを広げたいと考えている。日本以外のアジア地域も目指すところだけど、少数精鋭のチームでやっているから一度に全ては難しい。でもどの国においても、市場調査を含めて歴史などもきちんと理解してから慎重に検討すべきだと思う。
WWD:ブランドが目指す短期目標は?
デズリー:短期目標は今あるシリーズの幅を広げること。例えば色の追加だったりスタイルの追加だったり。あとは今展開している市場で数字を伸ばすことと、人々にブランドを理解してもらい、気に入ってもらって、リピートしてもらうこと。
ブリジット:私たちはストーリーを伝え続けることも重要だと思っているの。私自身、消費者として製品の背景やストーリーを理解した後に何を購入するかを決めたいと感じる。私たちがブランドにかける思いは本当にアツいから、それを発信し続けることはとても重要だ。
WWD:中長期の目標は?
デズリー:市場開拓は長期目標の1つ。まだまだ駆け出しのブランドだから、どんなことにもオープンマインドでいることを心掛けているし、急速に変化し続けるファッション業界の中で認知され続けるために動いていきたい。「ステート オブ エスケープ」はトレンドに左右されにくく、オールシーズン使えるから比較的わが道を行けると思っているけれど、各市場で正しいポジショニングをキープできるように力を尽くしていきたいと思っている。一個人としても、ビジネスとしても、まだまだやりながら勉強しているの。
ブリジット:で、その後は長期休暇を取りたいわ(笑)。
デズリー:そうね(笑)。