長田麻衣SHIBUYA109 lab.所長:1991年、東京都生まれ。総合マーケティング会社で化粧品や食品、玩具メーカーの商品開発・ブランディング・ターゲット設定のための調査やPRサポートを経て、2017年7月、SHIBUYA109エンタテイメントのマーケティング担当になる。18年5月に「シブヤイチマルキューラボ」を設立し、所長に就任。現在は毎月200人の“around20”と接する日々を送る。好きなものはうどんとカラオケ、ドライブ。今年の目標は“若者マーケター”としてテレビ番組に出ること、腹筋を割ること
SHIBUYA109エンタテイメントが5月、若者マーケティング機能の確立と情報発信のための研究機関「シブヤイチマルキューラボ(SHIBUYA109 lab.)」を設立した。同機関は渋谷109のマーケティング部門として“around20”と位置付ける20歳前後の若者の実態を調査すべく、活動を続けている。機関の代表を務めるマーケティング戦略部所属の長田(おさだ)麻衣・所長(26)に「シブヤイチマルキューラボ」について聞いた。
WWD:まず「シブヤイチマルキューラボ」を設立した意図を教えてください。
長田麻衣・所長(以下、長田):SHIBUYA109エンタテイメントという会社が2017年4月に設立され、その中でエンターテイメント・コミュニケーション部がマーケティングを担ってきたのですが、私が17年7月に入社し、マーケティングCRM担当という形で本格的にマーケティング調査を開始しました。今後マーケティングにとどまらない調査をすべく、思いきってマーケティング部署を「シブヤイチマルキューラボ」という名称に変更しました。
WWD:「シブヤイチマルキューラボ」では具体的に何をやっているのですか。
長田:渋谷109館内で来店者に声をかけてヒアリングをしたり、店舗にはまだ来ていない人も含めて“around20”について知るべく、館内で出会った人を中心に週に1回グループインタビューをしています。場合によってはインフルエンサー企業にお願いをして人を集めてもらうこともあります。ドタキャンされることもあったり、LINEを交換しても既読スルーされたり、大変ですよ(笑)。ただ、今の現場を知るだけではなくて、昔のプリ帳という文化についての対談をしたり、過去の若者について調べることもとても重要で、そうした流れを踏まえて、今の若者を調査することを意識しています。
WWD:“around20”にはどんなことを聞くのですか。
長田:基本的には本人の属性や来店頻度、好きなブランドといった渋谷109にまつわることを聞きます。加えて、好きなアーティストや親との買い物頻度など、各部署からその時に聞きたいことを集めて話を聞きます。
WWD:そこで聞いた話を渋谷109のビジネスに生かしていくイメージですか。
長田:社内資料として来客者のマインドタイプを分類したり、顧客データをもとにテナントに営業をかけるなど、まさに進めている最中です。
WWD:今後、どういった機関を目指すのでしょうか。
長田:自社マーケティングはもちろん、他企業と連携してデータを活用したいと考えています。そのためには来てくれる若者に対しても、他企業に対しても、きちんと中立的な立場を貫きたいと思います。きちんと若者にも親しみを持って話してもらいたいし、企業からも気軽に相談されるようなポジションになりたいです。
WWD:そもそも、マーケティングって難しい言葉だと思います。
長田:マーケティングとは、みんなをハッピーにする仕事だと思うんです。社内にこのデータがあれば仕事がしやすいとか、顧客が買い物しやすいとか。誰かの味方になりすぎず、離れすぎず、関わる人全員をハッピーにする環境作りこそがマーケティングだと考えています。私はこのラボを通じてマーケティングのプロになりたいんです。
WWD:若者と向き合う時に気をつけていることはありますか。
長田:直接会うこと、話すことを大切にしています。彼女らに「好きなブランドは?」とアンケートを取ると、「特になし」が最も多いんですね。でも、実際に会って話を聞くと、ポロポロと出てくるんですよ。定量調査ではわからないことがあるんです。
WWD:若者と接していて、ギャップを感じますか?
長田:ギャップ、感じます(笑)。正直そんなに変わらないかと思ってたんですが、音楽の話はもちろん、買い物の仕方も全然違って、海外の名の知れないブランドを平気で買うとか、「ネットで買ってお店で受け取りたい」というオムニチャネル思考を自然と持っていたり。なぜか女子高生からタメ口を使われるんですけど、同じ目線に立てているのかなと。ある意味、若者からナメられてなんぼの世界です(笑)。
WWD:反対に、影響は受けますか?
長田:影響も受けますね。韓国のECサイトを見たり、インスタグラマーやユーチューバーに注目するようになりました。
WWD:実際に接して感じている“around20”の特徴があれば教えてください。
長田:すごく自己表現の幅が広いと思います。今まで自己表現といえば洋服でしたが、洋服にコスメに音楽に漫画にと、自分を構成する要素が増えているんです。SNSの普及によって、自分がどう見られるかを気にする機会も多いですし、見せ方も多様化しています。
WWD:渋谷という街について、何か気付いたことはありますか。
長田:“around20”というターゲットは、住む場所でセグメントをしていません。渋谷109は地方からのお客さんも多くて、むしろ、館内でおしゃれな子に声をかけると地方から来た子だったりするんです。彼女らは地方から来るので、おしゃれに気を使っているんですよね。一方で都会からくる子はカジュアルで、見た目もガーリーだったり、古着風だったり、とにかく来てくれるお客さんの服装も住む場所も多様化しているという印象ですね。