「グッチ(GUCCI)」は30日、2019年プレ・スプリング・コレクション(クルーズ・コレクション)を南仏アルルの世界遺産、アリスカン遺跡で発表した。これまで性差や国境などあらゆるボーダーを超える提案でファッションの常識を揺さぶってきたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)=クリエイティブ・ ディレクターだが、ボーダーレスはもはや当たり前。今回は時間も飛び越え、古代ローマ時代から続くこの地で映画のワンシーンのような世界を創出した。
アリスカン遺跡は南仏有数の観光地で、大掛かりなイベントに使用するのは「グッチ」が初めて。入り口から教会跡地へと続く並木の遊歩道をランウエイとして使用した。教会のキャンドルが浮かび上がらせるのは、ずらりと並んだ空っぽの石棺。ショーが始まる直前にはランウエイ中央を切り裂くように炎が一直線に立ち上った。スモークと炎の奥から登場する無表情のモデルたちは、時空を超えて集まった訪問者のよう。ドレスアップした亡霊たちの散歩にも見えてくるが、その中に今を生きる人たちのイメージも重なる点が重要だ。
肌の色も年齢もキャラクターもバラバラなモデルたちが着ている服もまたバラバラ。南仏プロバンスでよく見られる小花柄のプリント使いやカラフルなロザリオを飾ったバロック調のドレス、シャーロック・ホームズ風の英国チェックのセットアップやヒジャブのようなスカーフ使い。引き続きアメリカ大リーグのロゴのアクセサリーもある。あばら骨風の装飾で遊んだ“骨々ロック”ルックはインスタ映えが抜群だ。得意のロゴ使いは今回、ロサンゼルスにあるセレブ御用達の「ホテル・マーモント」の文字をチョイス。このホテルはアレッサンドロの大のお気に入りだ。また、幽霊が住んでいることでも有名でもある。
こう書くとおどろおどろしい演出だが、その場にいると幻想的で美しい映画のワンシーンを見ているかのようだ。その印象を共有することこそがアレッサンドロの狙いのようだ。ショーの直後、アレッサンドロはインスタグラムを通じて「ここは墓地には見えない。なぜならそうであって、そうでないから。私は“何かに見えてそうではないもの”が好きなんだ」と、メッセージを発信した。哲学的な言い回しだが、この言葉に直感的に共感する人は多いのではないだろうか?目に見えていることの多くが、他の一面も持つことを私たちは知っているからだ。アレッサンドロが「グッチ」でやっていることは突拍子なくも見えるが、建前やオブラートや慣習を取り除き、本音や本質をむき出しにしようとしているにすぎない。だから刺激的であり、老若男女から共感を得ているのだろう。
アルルはダンテ(Dante)からゴッホ(Gogh)まで、芸術家にインスピレーションを与えてきた地で、古代ローマの石造りの遺跡が数多く残る。アレッサンドロの出身地はローマ。かつてはローマ帝国の一部だったこの地に彼は精神的つながりを覚えるのかもしれない。なお「グッチ」は先日、2019年春夏コレクションを9月24日にパリで行うことを発表した。また、18年プレ・フォール・コレクションでは、学生運動が活発だった1968年のフランスをフィーチャーしたキャンペーン「#GucciDansLesRues」を打ち出しており、アルルでのショーがアレッサンドロ流“フランス3部作”の仕上げという位置づけだ。