吉田拓巳ノモック社長:1995年、福岡県生まれ。15歳(高校1年生)の時に趣味の映像制作がきっかけとなって、広告制作やイベントプロデュースを行うセブンセンスを起業した。2018年に自身2社目となるノモックを立ち上げ、5月に資金調達を実施。一瞬にして5000万円を調達し、19年3月のテストローンチに向けて事業を開始したばかり。現在の従業員数は4人。セブンセンスも並行して事業を継続している
日本初となる運賃無料の配車サービス「ノモック(nommoc)」を企画する若手実業家の吉田拓巳・社長(22)が5月12日、247人の投資家から5000万円の資金調達に成功し、2019年3月のサービス開始に向けて本格始動した。募集後およそ4分半という過去最速の資金調達を実現したことで一躍話題になった吉田社長だが、アパレル企業も注視する広告の未来を変えるかもしれない、若き天才の考えを取材した。
WWD:まず、「ノモック」とは何か。
吉田拓巳ノモック社長(以下、吉田):事前登録をしたユーザーがアプリを通じて車を手配し、目的地まで無料で移動ができる配車サービスだ。移動中にユーザーの趣味嗜好から細かくターゲティングされた情報を流すことで、広告配信料で運賃をまかなう。
WWD:タクシー事業ではない?
吉田:本質的には“無料型の移動広告メディア”と捉えている。新しい形のリアルにおける広告媒体だ。
WWD:どのくらいの距離の移動が可能か。
吉田:まずは19年3月に福岡で10台の試験運用を始める予定だが、中心街から20分程度の移動を想定している。移動距離が長すぎるとビジネスモデルとしては厳しいので、区域制限はある程度設けるつもりだ。
WWD:なぜ福岡なのか。
吉田:自分の出身地ということもあるが、福岡市は国家戦略特区としてチャレンジングな企業に対する支援が手厚いことも大きい。僕らだけではなく、海外から来たベンチャー企業も多い。また、今後アジアでの展開を視野に入れると、距離的にも福岡は拠点として絶好だった。
WWD:どんな利用者を見込むか。
吉田:無料なので、細かくターゲットを絞らず、幅広い人に使ってもらった方が、メディア的視点ではうれしい。とはいえ、スタート時は若い人が中心になるだろう。まずは福岡県で年間8万4000人、中期的には主要都市で年間42万人の利用を目指す。
WWD:今後の事業計画は?
吉田:中期的には東京や京都、大阪などでの運用を考えている。20年の東京オリンピック・パラリンピックがポイントで、空港からの海外のお客さんに対して英語接客が可能なお店を紹介するなどして、都内2000台の運用を目指したい。
WWD:そもそも、“無料配車サービス”を考えついた経緯とは。
吉田:これまでイベント制作などをしてきた中で、大企業もイベントに予算を使うなど、ネットではないリアルな場が重要になると考えていた。そんな中で、同じ年齢・職種の人が同じ趣味を持つとは限らないのに、例えば新橋駅にはサラリーマン向けの看板広告が出ているように、リアル空間でターゲティングできるメディアがないという課題感を持っていた。
WWD:リアルな場でターゲティングをするために“車”を選んだと。
吉田:リアルな場で隔離空間を作ることができるのは、車内かトイレくらいしかなかった。「タクシー業界を変えたいのか」とよく聞かれるが、そんなことはなくて、例えば飛行機でも同じことができると考えている。個人の十何時間を企業が買えるというのはすごいことだ。
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WWD:史上最速の資金調達が話題を呼んだが、少し時間が経った今の心境は?
吉田:調達時、個人的には3分くらいで達成したいと思う一方で、集まらなければどうしようという不安もあった。今は実現に向けてとにかく事業を作っていく段階だと認識している。
WWD:今後、広告クライアントの開拓が必要になると思うが。
吉田:こちらから売り込みをするのは人員的にも無理だと思ったので、ローンチ前にリリースを打った。おかげさまで、すでにいろいろなお話をいただいている。もちろん自分たちでも営業をするが、新しい広告事業の形を作れるよう、広くアイデアを考えていきたい。
WWD:クライアント視点で考えた、今の広告の課題とは。
吉田:ターゲットにきちんと届いているかどうかだ。われわれは例えばビーコンを使って来店頻度を計測したり、画面上から予約や購入ができるようにすることできちんと成果を可視化したいと考えている。
WWD:アパレル企業もクライアントになるうる?
吉田:非常に相性がいいだろう。アパレルはそもそも自社のターゲットを明確化しているので、広告が打ちやすい。
WWD:その他、どういった分野の相性がいいと思うのか。
吉田:「幅広いユーザーに認知させたい」といった、ターゲティングの浅い広告は少し不向きかもしれない。それでも、“体験を通じた広告”を出すつもりなので、案外相性の悪いクライアントはいないのではないか。
WWD:“体験を通じた広告”とは?
吉田:誰もがフィクションだと気付くいわゆる“広告っぽいもの”は終わっていくと思う。旅行をしたいユーザーに旅行プランの提案から旅券予約を促すような旅行会社の広告とか、食べ物のレコメンドから行きたいお店を選ぶとそれが広告だったとか、コンテンツに対するユーザーの行動が前提にある、結果として広告だったというものが主流になるだろう。
WWD:そうした広告を作るには、ある種の編集力が必要になるのでは?
吉田:クリエイティブ力は欠かせない。まさにこれまでのイベント制作などの知見が生かされると思う。加えて利用者の移動データなどを分析することで広告の精度を高めていくつもりだ。
WWD:斜陽と言われるメディア業界だが、まだまだ可能性があると思うか。
吉田:有料メディアと無料メディアの二極化が進むだろう。もちろん良質なものにはきちんとお金を払うべきだし、一方で広告とともに成り立つメディアも生き残る。その新しい媒体の形として、移動型のメディアを作っていきたい。
WWD:そういう二極化という点では、タクシーともうまく棲み分けができるように感じる。
吉田:タクシーはお金という対価に対して移動があるので、お金さえ払えば長距離移動もできる。われわれは広告事業なので予約もできなければ、雨が降ったからといって急に配車できるとも限らない。そうした点は明らかにタクシーの方が便利だ。全く別物として認識をしている。