インスタグラムが投稿画像からECサイトへのリンクを可能にする“ショッピング機能”を日本国内で開始した。ビジネスアカウントに限り、バックエンドで在庫データを登録するだけで、簡単にサイトリンクのタグ付けができる。アカウントのトップページには“shop”ボタンが追加され、ここを押せばECリンクが紐付いた画像だけが一括表示される。
インスタグラムのスーザン・ローズ(Susan Rose)製品マーケティングディレクターは、「インスタグラムはもともと興味関心のあるものに出合いフォローする場所であるにもかかわらず、これまで“発見”の次のステップとしての“詳細”を知る方法がなかった。“ショッピング機能”は発見の後のシームレスな体験を実現するためのものだ」と説明する。「ビジネスアカウントを訪れるユーザーのうち、3分の2がそのアカウントをフォローしていないことからも、いかに新たなブランドとの出合いの場となっているかがわかるだろう。インスタグラムで商品を探すことはウインドーショッピングに近い感覚。ある種エモーショナルな側面があるのも事実で、欲しいと思った時にブランドのECサイトへリンクができることはユーザーも望むことだった」。
“ショッピング機能”を受けて、閉鎖的と言われたインスタグラムが外部サイトに対して開放に向かうのかといえば、そうではない。「インスタグラムは今後、なんでもリンクを貼れる方向に向かうわけではない。これまでの電話・地図機能などを含め、ビジネスアカウントに興味を示したユーザーが次の行動を取るための手段を提供しているだけだ」。また、反対に決済機能をつけることで、インスタグラム内でEC機能を完結するような計画もなく、「例えばある洋服の購入画面において、着用したインフルエンサーの一覧画像を表示するなど、購入に至る前段階の機能を拡充するだろう」と戦略を語る。
とはいえ、これまでは投稿画像から外部サイトへのリンクが一切なかったため、アパレル企業としてもインスタグラムを自社のブランディングのために活用するにとどまっていた。ECサイトへの送客を目的とする“ショッピング機能”の導入によって、アパレル企業がインスタグラムの扱い方を大きく変える必要があることは自明だ。国内ではまだ導入開始1週間程度だが、第1弾パートナーとなったハンドメイドECモール「ミンネ(minne)」を運営するGMOペパボの阿部雅幸minne事業部部長は、「すでにインスタグラムからの流入が増えているが、これまでもあったアカウントトップからの流入も減っているわけではない。投稿画像を見て欲しいと思いながらも購入できなかったユーザーを取り込めているのではないだろうか」と話す。同じく導入を開始した「ボタニスト(BOTANIST)」の小松悠I-ne販売本部ECセールス部部長も、「良質なユーザーを購入までつなげることができる。今後はSNS担当の役割も大きく変わるだろう。業務も増えるが、うれしい悲鳴だ」という。
「ミンネ」をはじめ、ネットショップ作成サービスのBASEなどは、出店店舗を対象に個人のインスタグラムで“ショッピング機能”を使えるようにする拡張機能の提供を同日発表した。自社のプラットフォームを利用する個人クリエイターが課金なくインスタグラムの“ショッピング機能”を使えるようになるというものだ。「『ミンネ』はそもそもインスタグラムからの流入がメーンだった。クリエイター向けに写真講座を行うなど、ビジュアルクオリティーの支援も行ってきた。“ショッピング機能”は個人クリエイターにとっても非常に意義のあるもの。今後、こうした機能を活用してビジネスの個人化がますます進むだろう」と阿部部長。鶴岡裕太BASE最高経営責任者も、「インスタグラムを活用しているブランドが、今まで以上に活躍できるようになるだけでなく、これから新たにECにチャレンジされる人にとって、とても良いタイミングが訪れたのではないか」と強調する。大きな企業、ブランドにとっても自社ECでの売り上げに貢献する可能性が高い“ショッピング機能”だが、同時にプラットフォームを活用してきた個人クリエイターやSNS発ブランドにとっても大きなチャンスと捉えることができそうだ。