「サンローラン(SAINT LAURENT)」が6月5日(現地時間)、ニューヨークで2019年春夏メンズ・コレクションのランウエイショーを開催した。メンズの単独ショーはおよそ2年ぶりで、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)クリエイティブ・ディレクターにとっては初めて。「グッチ(GUCCI)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」などケリング(KERING)傘下のブランドが続々と男女合同のコーエドショー(Co-ed Show)に舵を切る中、「サンローラン」の動向は独特だ。
世界各国からプレスを招き、彼らをフェリーでハドソン川対岸まで導き、大理石を敷き詰めた特設会場でショーを発表するあたりからも、ケリングにとって「サンローラン」が今、グループにとって非常に大事な存在であることが伺える。ケリングは昨年、当時1500億円規模のブランドを21年までに倍の規模に成長させると表明している。日本でも売り上げは好調。カリスマ、エディ・スリマン(Hedi Slimane)の退任後もブランド全体では右肩上がりの成長が続く。時代がオーバーサイズのストリートにシフトしても、「サンローラン」メンズはエディ時代のシャープなシルエットと、創業者イヴ・サンローランに通じるエスニックテイスト、ラグジュアリーならではの装飾を頑なに続け、アクセサリーで時代感を取り入れる。それが確固たるアイデンティティに繋がっていることが好調要因だろう。
マンハッタンの夜景をバックに発表した19年春夏メンズも、そんな頑なな姿勢に新たなムードをひと匙くらい取り入れたものだった。ベースはこれまでと変わらない漆黒のスキニーモード。コンパクトなジャケットに、シフォンのようなプリントシャツ、スリムパンツ、それに細長いストールとチェルシーブーツ。漆黒のモードにゴールドのエンブロイダリー(刺しゅう)は、背景の夜景と完璧にマッチしてただただ美しい。そこにアンソニーは今シーズン、ちょっぴりのアメリカンを加えた。
例えばシャツは、時折ウエスタンにシフト。呼応するようにロングストールはバンダナに代わり、ベルトもコンチョのようなメタルパーツをあしらったウエスタン調にシフトする。ウエスタンは、エスニックと相性が良い。創業者のイヴ・サンローランが好みアンソニーも多用するスエードのブルゾン、モロッコ由来の編み込みディテールが特徴のシャツなどは、19年春夏らしさを醸し出すウエスタンと融合した。
あまり大きく変わらないし、エディのイメージも多分に残っている。トレンドのど真ん中でもない。けれど、シーズン毎に少しずつ変わり、進化している。右肩上がりの順調な成長が頷ける、一歩一歩歩みを進めるようなクリエイションだ。