東京・自由が丘の「オルソ スープストック トーキョー(ALSO SOUPSTOCK TOKYO)」で5月に開催された「食べる鹿児島睦展」の内覧会で、陶芸家の鹿児島睦さんにお話を聞く機会がありました。同展では、彼が「スープストック トーキョー(SOUPSTOCK TOKYO)」と協業で制作したオリジナルの“スープの器”の販売やハンドメード作品の展示抽選会などが行われました。
鹿児島さんは福岡を拠点に活動する陶芸家で、家具の「アルフレックス(ARFLEX)」やフィンランド発テキスタイルの「ラプアンカンクリ(LAPUAN KANKURIT)」など多くのブランドとコラボレーションし、最近では、三越銀座店と愛媛・松山の道後温泉で開催されるアートフェスティバル「道後オンセナート2018」とのコラボで浴衣のデザインも手掛けるなど、活動の範囲が広がっています。動物や植物をモチーフにした鹿児島さんののびのびとした絵柄は、器だけでなく、テキスタイルなどさまざまな素材にしっくりなじみ、これらの道具に使う楽しさを加えています。日本だけでなくロンドンやロサンゼルスなどでも個展を行い、国際的な陶芸家として注目が高まっています。
祖父が遺した道具がきっかけで陶芸家の道へ鹿児島さんに陶芸家になった理由を聞くと、「勉強も運動もできなかったので、どちらかというと消極的な理由から陶芸家になりました。祖父の趣味が陶芸で、彼が遺した道具が家にありました。年を取ったらモノ作りがしたいと思っていたので、もったいないからその道具を使って器を作ろうと思ったんです」と話します。
田舎育ちという彼は子どもの頃から母親が集めた包装紙を並べて遊んだり、祖母が着物や帯を虫干しするのを眺めるのが好きだったそうです。「着物や浴衣などの伝統柄が好きなのは、母と祖母の影響でしょう。職人が大切に作ってきた柄には、とても魅力があります」。
12年半のサラリーマン生活で鍛えられた精神力鹿児島さんの器は全部ハンドメードで仕上げられます。土を練って素焼きをし、一つの器が仕上がるには約3週間かかるそうです。「デジタルではなく、全部手描きで仕上げることに何か面白みを感じてもらえるのはありがたいことです」と鹿児島さん。彼にとってクリエイションとは、「気分に左右されず、客観的に制作しなければと常に思っています。自分の作品に愛着を持ちすぎないようにしています」ときっぱり語り、「12年半サラリーマンをしていたので、感情や気持ちのコントロールに関して鍛えられたのだと思います」と続けます。鹿児島さんは、陶芸家になる前にインテリア企業に勤務していたそうです。
「私はアートを作っているつもりはありません。あくまで器は道具です。飾ったり、使ったり、人に楽しんでもらうのが一番だと思っています」。以前は、自分の作品がアートなのか単なる商品なのか、自分の中で葛藤があったそうです。鹿児島さんの器は人気が高く、抽選に当たらなければ購入できません。彼は、「私の器を待ってくれている人がいると思うと、失敗はできません。どんどん制作して、待っている人々に器を届けたいと思っています」と話します。鹿児島さんの自宅には、自作は一枚もないそうです。制作した器は全て、待っている人の元へ旅立つのです。
「スープストック トーキョー」は、毎年イヤーカップを制作しており、今年は鹿児島さんが2種類のイラストを手掛けました。“スープの器”のコラボに関しては、漆のお椀をイメージしたそうです。鹿児島さんは「昔あった蓋付き陶磁器は、今ほとんど作られていません。蓋とお椀をうまく合わせるのが難しいので、職人が敬遠しがちなのです」と言います。市場における蓋つきのお椀の需要も減っているようです。「蓋付きだと、うれしくなりますよね。食事にちょっとしたセレモニーが加わる感じがして。お椀にスープを入れて、蓋にパンを置いてもいいし、使い方はいろいろです。人をおもてなしする時に使ってもいいし、工夫して楽しく使ってほしいです」。