ファッション

コルソ コモ創業者カルラ・ソッツァーニの写真展開催 そこに込められた若者へのメッセージとは

 1960年代後半から80年代後半にかけてイタリア版「ヴォーグ(VOGUE)」や「エル(ELLE)」などのファッション誌の編集者として活躍した後、ミラノにショップやギャラリーからなる「ディエチ コルソ コモ(10 CORSO COMO)」を創業したカルラ・ソッツァーニ(Carla Sozzani)は、写真に深い愛情を抱いている。そんな彼女が数十年にわたり収集した個人コレクションで構成する「ビトウィーン・アート&ファッション(Between Art & Fashion)」展が11月18日まで、ベルリンのヘルムート・ニュートン財団で開催中だ。同展では、約2000の所有作品からよりすぐった89人のフォトグラファーによる200点以上を展示。ファッションフォトグラフィーのみならず、ヌード写真や報道写真、静物写真、ポートレートまで、モノクロを中心にさまざまな作品が並ぶ。

 今回の展覧会のベースとなっているのは、パリのギャルリー・アライアで2016年に開催された同名の展覧会だ。そのきっかけは、ソッツァーニの親友だったアズディン・アライア(Azzedine Alaia)の一言だった。もともと彼女のオフィスの壁には上から下まで写真がズラリと飾られていることを知っていたアライアが「君が集めた写真の展覧会を開こう」と提案したという。「私が所有していたのは、私にとって思い出のある作品や一緒に仕事をしたフォトグラファーたちからの贈り物で、展覧会を開くなんて考えたこともなかったから、初めは断った。でもアズディンはあきらめなかったの」とソッツァーニは明かした。そして、ファブリース・ハーゴット(Fabrice Hergott)=パリ市立近代美術館ディレクターを紹介されたことから、彼と共に膨大な写真の中から展示作品をキュレートし、展覧会に取り組むことを決めたという。そのセレクションは、彼女のパーソナルな視点が大きく反映されたものであり、同展ではベレニス・アボット(Berenice Abbott)やリチャード・アヴェドン(Richard Avedon)から、フランチェスカ・ウッドマン(Francesca Woodman)、山脇巖までアルファベット順に年代やジャンルをミックスして並べられているのが特徴だ。そこには、リリアン・バスマン(Lillian Bassman)、ラリー・クラーク(Larry Clark)、スティーブン・クライン(Steven Klein)、ピーター・リンドバーグ(Peter Lindbergh)、スティーブン・マイゼル(Steven Meisel)、森山大道、アーヴィング・ペン(Irving Penn)、マン・レイ(Man Ray)ら多くの著名写真家の作品も含まれている。

 ヘルムート・ニュートン財団での展示は、ギャルリー・アライアと昨年行われたスイスのル・ロックル美術館での規模を大幅に拡大しての開催となる。その目玉は、ソッツァーニと共にこれまで多くのプロジェクトを手掛けてきたサラ・ムーン(Sarah Moon)、パオロ・ロベルシ(Paolo Roversi)、ブルース・ウェーバー(Bruce Weber)、そして、ヘルムート・ニュートン(Helmut Newton)という4人が撮影したファッション写真を展示するスペースを新たに設けていることだ。ダークでどこかもの悲しさを感じさせる絵画のようなムーンの作品や、独特なライティングを生かした幻想的なロベルシの作品など、一口にファッション写真と言っても世界観や表現の幅広さが感じられる。また、ニュートンとソッツァーニが取り組んだ「アルベルタ フェレッティ(ALBERTA FERRETTI)」のフレグランスのビジュアル撮影の様子を収めた映像や、アライアがこの世を去り完成することはなくなった彼のためのムーンとソッツァーニによるショートフィルムの一部も公開されている。

 さらに併設されたジューンズ・ルームでは、ヘルムート・ニュートンの妻であるアリス・スプリングス(Alice Springs)による「ポートレート(Portrait)」展を同時開催。「ビトウィーン・ファッション&アート」展にも彼女の作品は展示されているが、こちらではカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)やイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)、アライア、山本耀司といったデザイナーをはじめ、ダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland)米「ヴォーグ(VOGUE)」元編集長や、アヴェドンらフォトグラファーのポートレートを見ることができる。

 これまで同財団で行われてきた企画展は、毎回2、3人の作品にフォーカスしてきたため、これだけ多くのフォトグラファーの作品が一堂に会するのは異例だ。開幕に先駆けて行われた記者会見で、マティアス・ハーダー(Matthias Harder)=キュレーターは「極めて実験的な試み。幅広い作品を通して、当時を知らない若者たちが学ぶ場になればうれしい」とコメント。ソッツァーニもまた、「私にとって、この展覧会は分かち合うこと。特に若い世代とシェアできることは素晴らしい。89人もの異なる視点で撮られた作品を一度に見られるのは、写真に興味がある若者たちにとってまたとない機会だと思う」と話した。その意義には深く共感する。というのも、ベルリンはクリエイティブな街と言われ、拠点を構える若いアーティストも多いが、展覧会や作品の“質”という点では他のヨーロッパの主要都市に引けを取っているように感じることも多いからだ。それは、ベルリンではルールのない自由な空気の中で作品制作ができる一方で、世界的に評価された作品を目にする機会が少ないからかもしれない。それを知ることがもちろん全てではないが、今回のような展覧会が増えることは、ベルリンがクリエイティビティーの発信地として発展していくうえで重要だろう。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

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