ニューヨークのハドソン川沿いに野外ランウエイを設置した「ジバンシィ バイ リカルド ティッシ」2016年春夏コレクション
アメリカファッション協議会(CFDA)のアイデアは、現在の“崩壊したシステム”を見直して、年2回のファッション・ウイークを、「業界のイベント」から「消費者志向のショー」に変更するというものだ。つまりファッションショーを、すでにショップに並んでいるオン・シーズンのコレクションを発表する場にしたいと考えているのだ。
CFDAは、今後のファッション・ウイークの在り方を根底から変えようと考えている。 シーズンの半年前に、エディターやリテーラーなど限られた観客を対象にランウエイショーを行い、消費者がそのアイテムを手にするのは半年後、という現行のファッションシステムはもう崩壊しているというのがCFDAの主張だ。
そのためCFDAはボストン・コンサルティング・グループ(以下、BCG)に、将来のファッションショーの在り方を明確にするための調査を依頼した。この調査は今年のホリデー後に開始し、約7週間を費やす。調査結果は2016年2月に開催する2016-17年秋冬ニューヨーク・ファッション・ウイークには影響を及ぼさない。BCGは業界のエキスパートたちに話を聞き、より出荷に合わせた時期にショー開催をシフトさせることが可能かどうかを調査する。つまり秋冬モノを9月に披露し、春夏モノを2月に発表するというアイデアなどを提案する。
ダイアン・フォン・ファステンバーグCFDA会長は、「デザイナーからリテーラーまで、あらゆる人たちが、ショーについての苦情を申し立てている。ソーシャルメディアが発達したため、人々は混乱しており、現行システムがどうにも機能しないようになった」と述べる。「消費者がインスタグラムやウェブサイトで見た服を買いにショップに行っても、6カ月待ってくださいと言われてしまう。もうこれからは消費者優先のショーにした方がいいと、誰もが考えているのではないかしら」。
フォン・ファステンバーグ会長は、新システムについて、まだはっきりとした答えをみつけてはいないというが、例えば、デザイナーがアポイントメント制プレゼンテーションなどで、リテーラーやプレスには半年前にコレクションを披露し、受注するというやり方もありだと語る。「そしてオン・シーズンになってから、消費者を招いたランウエイショーを大々的に開催してショップに並んでいる商品を披露すれば、ソーシャルメディア現象の恩恵を丸ごといただけるわ。現行システムで得をしているのはコピー業者だけよ」。
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すでに動き出したデザイナーも
ファッション・ウイークはカオスと化し、ツイートやインスタグラムの投稿は溢れんばかりで、商品サイクルはどんどん短くなり、多くのデザイナーや企業が、過熱したファッションシステムにいかにして対処するかを見直し始めている。12月に入ると、現行システムに反旗を翻したデザイナーや企業のニュースが続々と飛び込んできた。
「プロエンザ スクーラー(PROENZA SCHOULER)」は16年プレ・フォール・コレクションについて、商品が店頭にそろい始める4月頃まで、写真を含む一切の公表を控えると発表した。レベッカ・ミンコフは、2月のニューヨーク・ファッション・ウイークで16年春夏コレクションを、消費者を招いたショーで披露すると発表し、画期的な一歩を踏み出した。観客の30〜50%は消費者になるという。彼女も、アイテムがショップに並ぶ頃には、ソーシャルメディアやセレブの着用によって、消費者はもう飽き飽きしてしまっていると考えた1人だ。
「ジバンシィ バイ リカルド ティッシ」2016年春夏コレクションのショーを待つNY市民
なお、消費者をショーに招待するというアイデアは、「ジバンシィ バイ リカルド ティッシ(GIVENCHY BY RICCARDO TISCI)」と「ラグ & ボーン(RAG & BONE)」がすでに昨年9月の16年春夏ショーで実践している。また、「タクーン」もビジネス体制の転換を図ることになった。かつてマイケル・コースなどに投資して巨額の資産を築いたサイラス・チャウの娘のヴィヴィアンが同ブランドの過半数株式を取得し、今後同ブランドを「今見て、今買って、今着る」ブランドへとシフトすると見られている。なお、「タクーン(THAKOON)」は2月のファッション・ウイークのショーカレンダーには載っていない。
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「今見て、今買って、今着る」って本当にうれしいこと?
ケン・ダウニング=ニーマン・マーカス シニア・バイス・プレジデント兼ファッション・ディレクターは、「私は業界システムの見直しに大賛成だ。今のファッションショーは、巨大マーケティング・イベントになってしまった。元来は、バイヤーとプレスにシーズンのメッセージを届けるためのものだったが、テクノロジーがファッション業界の全てを徹底的に変えてしまった。消費者は、今目にしているものを今買いたいのだ」。だが、反対者も大勢いる。ラルフ・トレダノ=フランスオートクチュール・プレタポルテ連合協会会長は、「ファッション業界が変貌をとげたことは確かだが、私の知る限り、システムは崩壊などしていない。インターネットとソーシャルメディアによる革命は、われわれが使いこなし、コントロールするべきものだ。われわれはテクノロジーに支配されてはならないし、テクノロジーを追いかける側になってはいけない」と反論する。
「現在の問題点は、ニューヨークではまだ気温が17度もある11月半ばに冬物セールに入ってしまうことだ。これをやめれば、ずっとシンプルになるのではないか。その代わりに2月末にセールを始めれば、現実的だし、はるかにシンプルだ」。また、アナ・スイは、「私はショーを開催するのが大好き。あの高揚感がたまらないわ。でも、オン・シーズンのコレクションを披露して同じエネルギーを感じられるかどうかわからない。消費者のためにショーをするとすれば、それは売るための商品を並べるものにならざるを得ない。デザイナーにとって、ランウエイショーのためのものをデザインするのと、ショールームに並べるものを作るのは、全く違うこと」と述べる。
ただし、値下げと出荷のスケジュールについては、彼女も変更が必要だと考えている。「特に出荷時期は、全くつじつまが合わないわ」。セレクトショップ「ジェフリー(JEFFREY)」の創業者でありノードストロムのデザイナー・マーチャンダイジング担当バイス・プレジデントでもあるジェフリー・カリンスキーは、「今のシステムが崩壊しているとは思わない」という。「ファッションが本当に好きな消費者は、ソーシャルメディアでファッションを見たり、それについて読むのも大好きだ。でも、彼らにとってとても大切なのは、“ラグジュアリー・ファッションという、すごくスペシャルな世界がある”ということなんだ。消費者直結というアイデアは、“普通の消費者にはちょっと手が届かない”“業界人オンリー”というミステリアスな世界の好ましさに比べれば、はるかに小さな利点しかないと思う」。
さらに、「ノードストロムのラグジュアリー顧客は、待つことを楽しむ人もいれば、先行プレビューを見て、先に手に入れる特権を欲しがる人もいる。誰もが春の服のランウエイショーを2月に見て、それを2月に買いたいと思うかというと、それは疑問だ」。そして「ラグ & ボーン」のマーカス・ウェインライト共同創業者兼共同クリエイティブ・ディレクターの意見を聞いて終わりにしたい。
「莫大な費用を使って消費者志向のショーを開催するとして、『このショーって効果あるのか?』という疑問にたどり着く。ショーは、消費者に服を見てもらうベストの方法なのだろうか?そうかもしれないが、確信はもてない。服はすでに作ってあるわけだから、確実にリターンを得られるのかという不安もある。また、リテーラーにはすでにショールームでコレクションを見せているにしても、彼らだってショーを見て全体像をつかみたいだろうし、なによりもショーを見ないことにはランウエイトレンドがつかめない。この問題は込み入っているから、簡単に答えは出ないよ」。
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