「ビンテージ好き」を自認するファッション関係者でも、サリーム・ガンチ(Saleem Ghanchi)と聞いてピンとくる人は少ないだろう。ただし、1人で30億円分のコレクションを持つと聞けば、目の色が変わるはずだ。
ガンチは1974年、パキスタンで生まれた。父はリサイクル工場を経営しており、彼は幼いころから古着の山で遊び、やがてその中から自分のお気に入りの1枚を見つけることに夢中になった。“自主練習”により目を鍛え、古着の一大集積地であるパキスタンを訪れるビンテージバイヤーと触れ合うことで、次第にその価値と体系を理解し始めた。
24歳で一念発起し、現在古着ビジネスの熱源となっているタイ・バンコクにビンテージ卸のG RAGS 72を設立した。その理由について6月に来日したガンチは、「古着はパキスタンに集まるが、ビンテージバイヤーはインフラや食べ物の観点から、パキスタンまで来ることに二の足を踏んでいた。ならばと、自ら世界に打って出ることにした」と語った。
欧州、アメリカ、アラブ諸国など世界各地から古着をベール買い(袋詰めした状態での量り売り)し、精鋭のピッカーを従え、最後はガンチ本人が見定める。中には100年近く前の品もあるが、コンディションの良さが際立つ。本人は、「あるバイヤーは『タイムマシンでも持っているのか?』と聞いてきたよ」と笑う。
ビジネスのかたわら、眼鏡にかなったスーパービンテージを毎年2億円ずつ個人で買い集め、30億円分をストックする(!)。デニムや軍モノが多く、特にスカジャンは、エイ出版社が彼のコレクションを中心にムックを1冊製作するほど。
今や、多くのラグジュアリーブランドがビンテージをサンプリングし、コレクションに反映させているのは周知の事実で、あるブランドのデザインクルーは年に何度もガンチのもとを訪れ、別のラグジュアリーブランドは年間3億円分を彼から購入するという。
G RAGS 72の卸先を国別で見ると、日本は35%を占める。意外に少ないと感じて尋ねると、「ここ1~2年は韓国、台湾、中国が伸びている。特に韓国のシェアは40%だ。K-POPスターがビンテージを着たことで一気に認知度が上がった。日本は成熟したマーケットだが、東アジアにはポテンシャルを感じる」と答えた。日本向けには伊藤忠モードパルと組み、ビンテージウエアを生かした新ビジネスを企画している。
一方で、「ビンテージは有資源だ。“乱獲”してはいけない。私は一生分稼いだので、これからはビンテージを生かして社会貢献をしたい」と静かに言う。ガンチはタイの縫製工場と協力し、古着のリサイクルアイテムを商品化している。また難民キャンプに古着を寄付するなど、慈善活動も積極的に行っている。