退任したトーマス・マイヤー(Tomas Meier)「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」クリエイティブ・ディレクターの後任大本命と評された(メゾンは翌日、ダニエル・リー(Daniel Lee)を後任に指名した)クレイグ・グリーン(Craig Green)が14日(現地時間)、イタリア・フィレンツェで開かれているピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)のメーンゲストとして2019年春夏コレクションを発表した。「ボッテガ・ヴェネタ」の後任候補の大本命として、突如名前が浮上した翌日のことだ。1時間10分遅れでスタートしたショーは、これまでのクレイグ・グリーンのコレクションをさらに抽象化・複雑化したものだった。
彼のコレクションはすでに難解で、洋服は無数のハトメから紐が垂れさがり、それを結んだり、解いたり、別の場所に引っ掛けたりすることでフォームを自由自在に変えてきたし、着る人に解釈の余地を委ねてきた。しかし、そんな複雑怪奇なコレクションも源泉を辿れば、ある時はキャンプに参加したボーイスカウトだったり、ある時は南国で目にした夕暮れの風景だったり、インスピレーションは基本直接的。ところが今回は人間の内面を見つめ、多様な人が懐く、さまざまなパーソナリティーのカケラを1つにまとめたようなアプローチ。最終的なスタイルはさらに複雑さを増し、工作寸前、ギリギリセーフ(もしかしたらアウト?)なクリエイションも多い。もともとアーティスティックなデザイナーではあるが、抽象的なアイデアから、言葉にできないほど無数のカケラを集め、それをいつも通り複雑なパターンでアートな洋服に仕上げていく。もはや人間は、キャンバス。彼はその上で絵画のように色を加え、彫刻のように成形し、それをコラージュのように繰り返す。
例えば、序盤は入院患者が術前に着用する寝巻きをパステルカラーに染め、ロープを配したようなセットアップ。人体の構造と、その中身、特に人間の身体に張り巡らされた血管の存在をつまびらかにするようだ。そして中盤は、さながら恐竜のウロコのように化繊のハイゲージニットを肩口などさまざまな場所に縫い付けるクリエイション。今度は人体の構造というより、その内面から、とてつもなく強い感情が湧き上がっている様を表現しているようだ。シアサッカーの半袖シャツにはタンクトップがトロンプルイユ(だまし絵)のようにプリントされた。得意のシンプルな貫頭衣にハトメをあしらい長いロープを垂らしたようなスタイルは、素材をタイダイで七色に変換。さまざまな感情が渦巻く様子、もしくは多彩な人間が同居することで成立する社会などを想起させる。
コンセプチュアルでアーティスティックなのは長所、ただエフォートレスでリアルかと言われれば決してそんなことはなく、彼の特性は短所になりかねない。そんな“諸刃の剣”感を強く抱かせたコレクションだ。