キム・ジョーンズ(Kim Jones)がブランド名を「ディオール(DIOR)」に改め、2019年春夏メンズ・コレクションを発表した。「オム」の文字を取ったのは、メンズもウィメンズも、ビューティも全て1つのブランドの下にあるべきという、メゾンの「ワン ディオール(1つのディオール構想)」に基づくものだ。
コレクションは、そんな「ワン ディオール」の世界にしっかりと根付いた、珠玉のラインアップだった。キムは、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のクリエイションから大きく舵を切った。
新生「ディオール」メンズの主軸は、カジュアルでもフォーマルでもウエアはクチュールブランドでしかなし得ないエレガンス、アクセサリーは前職でも才能をいかんなく発揮したキムらしいフレッシュネス、そして、ちょっぴりのユーモア。エレガンスとフレッシュネス、そしてユーモアは軽やかなスタイルのもと見事に融合し、ストリート一辺倒の時代におけるエレガンス復興の道筋を見せる。ダイバーシティー(多様性)が叫ばれ、ヒップホップを核とするストリートの潮流が大きくなる中、逆に見捨てられたフォーマル、そしてエレガンスに光を当てた。
フォーマルは、ごくごく薄い、若干の光沢を放つシルキーなストライプ素材で作るセットアップで幕を開けた。肌が透けるほど薄い素材には、ところどころ純白の布帛を重ね、エアリーなジャケット、パンツ、そしてシャツジャケットに仕上げていく。インナーには、“Dior”の文字を並べるアイコニックな“オブリーク”のチュールインナー。アイコニックといえば、メゾンがバッグなどに多用する格子柄“カナージュ”のカットアウトを背面に持つオーガンジーのGジャンもある。
ごくごく薄い、ウィメンズのドレスに用いるような素材からウエアを作るのは至難の技だ。なのにキムと「ディオール」は、そこにカットアウトなどの超絶技巧さえ加え、クチュールブランドとしてのクラフツマンシップを存分に発揮する。なのに、これ見よがしには見せつけない。「ワン ディオール」の名のもとで示すウィメンズとの親和性、最高峰の手仕事、そしてエレガンス。ここには、その全てが詰まっている。
アクセサリーは、前任のクリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)に比べ、格段に魅力的だ。特筆すべきは、これもウィメンズに通じる“サドル”バッグ。ウィメンズのアーティスティック・ディレクターを務めるマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)が最近蘇らせた曲線のアイコンバッグをメンズにも取り入れ、バックパックやボディバッグなどストリートライクに仕上げた。サドルバッグの曲線は、キャップのツバにも現れる。レザーは“カナージュ”の形にカットアウトして、ボストン風のスクエアバッグに。“CD”のロゴはバックルにのせられ、キャップに加わった。キムのアクセサリー作りの才能は、「ディオール」においても健在だ。
卓越したクラフツマンシップと最高級の素材にもかかわらず、全体が軽やかに見えるのは、エアリーな素材や淡いダルトーンのパステルを中心とした色使い、ストリートライクなアクセサリーに加え、ちょっと脱力するくらいのユーモアによるところも大きい。生真面目な優等生だったクリスには、正直乏しかった魅力が備わった。ショー会場の中央に現れたムッシュー・ディオールのアバター(全長10mの巨像は、7万本のバラで作られている)を含め、アーティストのカウズ(KAWS)はアイコンのハチのモチーフを含めて、一部アクセサリーのデザインを担当。「アンブッシュ(AMBUSH)」のYOONもジュエリー制作に携わった。帽子はスティーブン・ジョーンズ(Stephen Jones)、クリップは「アリクス(ALYX)」のマシュー・M・ウィリアムス(Matthew M. Williams)ら、さまざまなクリエイターが参画し、コレクションの多面性を増す。キムは、「その道のプロに任せた方がいい。その方が、絶対コレクションは面白くなる」と話す。フィナーレでキムは、客席にいたユンの手を取り、2人でバックステージに走っていった。そこに待つのは、メゾンのクチュリエたち。キムは、彼らとの協業を重ねながら、新生「ディオール」で新時代のエレガンスを追求する。