多様性を意味するダイバーシティーという考え方が、急速に広がっている。ミラノではウィメンズ由来のスモールバッグや“襟抜き”などのレディライクな着こなしなど、アイテムやスタイリングの影に隠れていたメッセージが、パリでは大きく花開き、コレクションの主題になっている。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)による新生「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、その代表格。そして「トム ブラウン(THOM BROWNE)」もさまざまな違いを個性ととらえ、それぞれが手を取り合って暮らす理想郷を描いた。
コレクション会場は、芝生広がる古き良き邸宅の庭のよう。木製の柵は色とりどりのペンキに彩られ、バラやガーベラなどの花が咲き乱れる。
序盤に現れたのは、グレーのジャケットにカバーオール姿で芝刈り機を運転するヒゲ姿のモデル。そして続くのは、一輪車に色とりどりの花を詰め込み、押してくるモデルだ。彼は会場をウロウロすると、ゲストにバラやガーベラをプレゼント。のどかな光景に観客の心は和んだ。
メーン・コレクションは、虹色のパステルカラーに彩られた巨大なフォーマルから始まった。ブルーのチェスターコートにはクジラが踊り、グリーンのストライプ柄ジャケットの下にはオレンジのギンガムチェックのシャツ。ネクタイはイエローで、パンツはピンクのギンガムチェックといった具合。巨大なフォーマルにさまざまな色と柄を詰め込んだ。
そんなビッグフォーマルが30ルックほど続くと、今度は全く同じ色と柄のコーディネイトながらコンパクトで「トム ブラウン」らしいシルエットのフォーマルが始まる。色や柄、コーディネイトは、ビッグフォーマルと全く同じ。しかしながらファーのコートは毛足をより短く刈り込み、ロブスターなどのモチーフは少し小さくなった。全60体のルックがゆっくりランウエイを歩く中、最初に登場したグレーのカバーオールを着たモデルたちは、時々観客に手を振っている。
フィナーレは、全く同じコーディネイトのビッグフォーマルとコンパクトフォーマルのモデルが2人1組になって、手を繋いだり、肩を組んだりして現れた。レインボーカラーの2人が仲よさそうに歩く姿は、体の大小なんて関係ない、そんなムードを想起させる。2人が並んで初めて気づいたのは、アゴに塗ったチークの色が、それぞれに異なっていること。青いアゴと黄色のアゴのモデルが手を繋いで歩く姿は、体の大小の他、人種や肌の違いだって意味がないことを表しているようだ。
そして、男性モデル2人が手を取り合って歩く姿は、同性愛と異性愛にも価値の大小なんて存在しないことを訴える。フィナーレに登場したトムは、拍手喝采浴びた。