キャリアコラム

香水の販売員は「妄想力」がカギ アナログ接客で顧客の心をつかむ 内山裕美子パルファム ソムリエール

 大手アパレルメーカーで販売員を経験後、香水業界のリーディングカンパニーであるブルーベル・ジャパンに転職した内山裕美子さん。同じ販売員、同じ女性を美しくするアイテムの取り扱いでありながら、手に取れる洋服から、目に見えない香りへと、大きく“場所”を変えた。「ブルーベルに入ってから、妄想が激しくなった」と笑う内山さんに、なぜ香水の販売員になったのか。見えない香りを伝える極意とはーー。

 ファッション週刊紙「WWDジャパン」6月25日号の販売員特集で紹介した販売員の一人、パルファム ソムリエールの内山さんのインタビューをお届けする。

WWD:なぜ香水の販売員になったのか?

内山裕美子パルファム ソムリエール(以下、内山):大手アパレルメーカーの販売員を約1年間経験しました。当時、フレグランスをつける習慣はなかったのですが、化粧品売り場で試してみると、良い香りだなあと、興味を持ち始めて。ちょうど違う仕事も経験してみたいという思いもあり、ブルーベル・ジャパンに入社しました。

WWD:洋服から香水に変わり、苦労した点は?

内山:やはり洋服と違って形のない香水は形容が難しいと感じました。最初はブランドの背景を覚え、製品の説明をがんばって覚えて伝えるだけ……。なかなか伝わらず、お客さまとコミュニケーションが取れていないと感じました。製品について紹介しきれなかった悔しさ。何を求めていたのか、くみ取るスキル、聞き出す力が欲しいと思いました。今では、ただ製品紹介をするだけでなく、香りのコンセプトや調香師の香りを作り出した時のこだわりをもとに、身近にあるものを例に伝えるようにしています。

WWD:イメージしやすい例えを、会話に盛り込むために努力していることは?

内山:香水の販売員になってから、インドアからアウトドア派になりました。旅行に頻繁に行くようになったり、当社は多くのラグジュアリーブランドを取り扱っているので、そのブティックに足を運んだり、言葉の意味を調べるようになったり……。知らないことを知ることでリアルな言葉が出るようになってきました。伝えるのはやはり言葉。表現力です。以前よりも「妄想」が激しくなったと感じています(笑)。

WWD:どういった妄想?

内山:香りにまつわる妄想ですね。例えば、朝日が昇りその日が差し込んでいる部屋にいる。そこは穏やかでゆったりとした時間が流れる空間で。そこに漂う香りを想像し、そしてどんな気分になるか。毎日そんな妄想を繰り返しています。後は、新しい香水を使った時、自分自身に質問して回答をするといったことを繰り返します。疑問に思うことはお客さまも思うのではないでしょうか。洋服だとイメージを伝えながらも目に見えるから想像もしやすく、接客時間は掛かっても30分ぐらいでしたが、香水はお客さまの嗜好、ライフスタイルなどをお聞きすることはもちろんですが、そんな妄想話もお伝えして、会話していると1時間はゆうに過ぎてしまいます。

WWD:香りは好みがはっきりしてそうだが、どうアプローチする?

内山:ここ三越恵比寿店は「いらっしゃいませ、こんにちは」とお声掛けすると、「こんにちは」と返事をしてくれる土地柄です。平日は近隣の人が多く、30〜70代、土日は近郊から20代、家族連れもいて幅広い客層です。普段から香りを使っている人、今まで使っているものと違うものを使ってみたいと思っている人、使ってないけど興味はある人、ただふらっと入って来た人とさまざまです。例えば、「ローズの香りはあまり好きじゃない」という人がいますが、でもローズって一言で言っても香りは本当にいろいろあります。ブーケのようにふわっとまとえるローズや、足取りが軽くなるようなフレッシュなローズ、甘いローズの香りまで。これを妄想で鍛えたイメージで伝えることで、「あれ、このローズ好きかも」と思ってもらえます。

WWD:接客の“技”として使っているものはありますか?

内山:香水って体に振りかけるだけではなく、ハンドクリームやボディークリーム、ボディージェルなど、同じ香りのボディーケア製品をそろえているブランドも多いんです。なので、接客の最後に購入の有無に関わらず、ハンドマッサージを会話をしながらゆっくりさせていただきます。見えない香りを肌で感じてもらうことで、迷われている方も購入につながることが多いと思います。

WWD:香水はリピーター作りが難しいと思うが。

内山:購入していただいた人には、別の香りのサンプルをお渡ししています。購入された香りがデイリーのものなら、休日用のサンプルを。会話の中で夫と出かけるとお聞きしたら、カップリングフレグランスをお渡しします。そうすると、男性が来店され購入されることもあります。今はSNSの時代で他のブランドでは、LINEなどで顧客と連絡を取り合うともお聞きしますが、私はしないですね。やっぱりお手紙を都度都度出します。アナログなんです(笑)。


「WWDジャパン」6月25日号詳細はこちら

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