「ディアンドデパートメント(D&DEPARTMENT)」が「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」と運営するコンセプトショップ、グッドデザインショップ(GOOD DESIGN SHOP)の閉店を発表し、話題となった。表参道店は7月9日、大阪店は12日までの営業だ。両社が次を目指すためのステップといい、「ディアンドデパートメント」自体も“原点に戻る”ことを目指して大きくリブランディングを実施するという。今後「ディアンドデパートメント」が目指す場所について、ナガオカケンメイD&DEPARTMENT PROJECTディレクターに話を聞いた。
WWD:そもそも「ディアンドデパートメント」はどのような思いで立ち上げたのでしょうか。
ナガオカケンメイ(以下、ナガオカ):もともと建築家という職業に憧れがあって、クライアント仕事をする建築士とは異なり、社会に向かって建築というジャンルを探るような人を建築家だと考えているんですが、デザイナーも業界の中だけでクライアント仕事に依存するのではなく、社会に対してコミットしていかなければいけないと考えました。自分自身も“デザイン活動家”を名乗っていますが、デザイナーと社会との関わり方に興味があったんですね。
WWD:社会との接点としてお店を作ったということですか。
ナガオカ:生活道具が好きで、そういったものを集めたお店を作りました。デザイナーとしてまずはデザインされた商品の売り方を考えなければいけないと。われわれはD&DEPARTMENT PROJECTと名乗っていますが、あくまでもこれはビジネスというより“PROJECT”なんです。いずれあるべき姿が見つかった時には社名から“PROJECT”を取りたいんですが、なかなか取れないんです(笑)。
WWD:その後、店舗を拡大してきたと。
ナガオカ:はい。当初は直営店を主要都市に出していくことを考えていましたが、ある時、北海道でどうしても自分がやりたいという人が出てきまして。それまでは自分で絶妙な構成で売り場を作ってきたので、初めは断ったんです。でも、彼はグラフィックデザイナーなのですが、キュレーションさせたら案外面白くて。これは東京をコピーした直営店を地方に作るのではなく、地域に住む人に運営を任せるフランチャイズ型がいいんじゃないかということで、2007年から出店の方向性を切り替えました。
WWD:ガイドブック「d design travel」も北海道からスタートしましたよね。
ナガオカ:柳宗理さんが「電車のアナウンスも民芸だ」とおっしゃっていたことに衝撃を受けて、生活の中にある普通の“コト”に興味が湧いたことがきっかけでした。当時北海道店を作った後で、北海道店のオーナーの佐々木(信)さんと旅をしていたのですが、そうしたモノゴトをまとめる形で試作品としての「d design travel」初号ができました。その後も都道府県ごとに毎年3冊ずつ「d design travel」を作っています。
WWD:海外ではソウルに出店をしていますが、いつから海外に目を向けていたのでしょうか。
ナガオカ:実は2003年頃にニューヨーク店の構想がありましたが、当時はうまくいかず、話がなくなりまして。その後、ソウルからもやってみたいという話をいただいて、海外でも地域性の考え方が当てはまるのかを試すために実験的な店舗としてソウル店をオープンしました。
WWD:出店は相手があってこそ、というイメージなんですね。
ナガオカ:よく会社として成長が遅いとか、どういった展開方針かと聞かれるのですが、誰かからやりたいと言われなければ店舗を出すつもりはないんです。とくにフランチャイズ式に変わってからは、なおさら、よそ者がある地域の良さを見つけるのは限界があると感じています。
WWD:今回リブランディングによって“原点に戻る”ということですが、どういった背景があったんでしょうか。
ナガオカ:立ち上げた2000年頃は例えば家具なんかは絶対にお店で買っていたのと思うのですが、今はウェブでなんでも買う時代ですよね。社会的な状況が変わってきたんです。だとしたら路面店のあり方を考え直すべきだと考えました。実は5年くらい前にネット通販が強くなって、同じようなお店も出てきたので、一時期店をやめようかとも思いました。でも、自分は紙媒体が大好きなんですが、紙には紙の良さがあるように、ウェブにはできないことを路面店でやろうと。
もう一つ、これまでお店では“ロングライフデザイン”をテーマに家具の“ようなもの”を集めてきたのですが、会社が成長する反面、だんだん“ようなもの”がなくなって、ただの家具屋さんに変わってきてしまったんです。あらためて“ようなもの”を集めるとともに、足りないものは自分たちで新しくオリジナル商品を作る形で、今ある商品の3分の2くらいを刷新したいと思っています。
WWD:今後の路面店のあり方でいえば、どういった可能性を考えていますか。
ナガオカ:ちょうど今月埼玉県熊谷の洋食・喫茶店「PUBLIC DINER」の2階屋上テラスに新しいお店をオープンしたんですが、ここは2坪(約6.6平方メートル)しかなくて、扱う商品も300SKUほどです。ここではモノを売るのではなく、コトを提案しようと考えていて。もともと“デザインの道の駅”のようなお店を出したいと思っていて、人が集まってくる場所を作りたいと思います。
WWD:お店でのコトの提案とは、例えばどんな方法がありますか。
ナガオカ:例えば、お祭りなんかがそうですね。栃木県の益子に陶芸祭りがあるんですが、そこでは単に売れ残った商品を売っていたんです。これでは益子のストーリーを伝えられていないと気付いた人がいて、“陶器を売らない”お祭りを始めました。継承すべきストーリーを残しながらも、お祭りの会場全てがデザインされていて、お祭りもデザインできるのかと衝撃を受けました。他にも地域を歩いて学ぶような場所になるとか、埼玉の市町村をテーマにキーマンを探して展覧会やトークショーをやるとか、いろいろと模索しています。
WWD:他にはどんな可能性がありますか。
ナガオカ:2018年9月に初の中国店が碧山という場所にできます。ここでは「d news」というゲストハウス付きの新業態を展開しようと思っていて、建築家の谷尻誠さんに設計を依頼しています。ここはキュレーションスペースとして外身をわれわれが用意するレンタル式の「ディアンドデパートメント」のような場所。いろんなクリエイターに1週間くらい泊まってもらい、その地域の中で何かを作ってほしいんです。日本のモノ作りをここに放り込んで、その地域のモノ作りと新しいものを開発するための場所にしたいです。もちろん、今後は日本でも展開する予定です。
WWD:ゲストハウスといっても、クリエイターが泊まるための場所なんですね。
ナガオカ:そうですね。レンタルキッチンも付いているので、例えば料理人がその土地に住んでカレー屋さんを期間限定でやったり、陶芸家が日本全国を泊まり歩きながらモノ作りをしたり。これは私の仮説ですが、どんなに過疎化した場所でも「d news」を作り、クリエイターがかわるがわる来ることで、地域を活性化できると考えています。
WWD:では、今ある「ディアンドデパートメント」のお店はどうなっていくのでしょうか。
ナガオカ:その土地にあるものを紹介する交番や図書館のような場所を目指しています。実は「ディアンドデパートメント」という名前も変えたくて、できれば「d」という名前にしたいなと。ブランド名がつくと商売くさいから名前をつけないという考え方ですね。
WWD:さまざまな新業態は今後1つに集約されていくイメージですか。
ナガオカ:今はそれぞれ分けて考えていますが、広がっていったときに合体する可能性はありますよね。そもそも、フランチャイズというやり方も、自社のブランディングを統一するという観点ではもしかしたら直営店がいいかもしれませんし、今後全ての店舗を直営店に切り替える可能性もあります。どうなるかは全くわからないですが、9割くらい失敗すると思っています(笑)。
WWD:ビジネスではなく、本当にプロジェクトですね(笑)。
ナガオカ:私自身は全くビジネスをするつもりはなくて、商品開発でお金をもうけられればいいなというくらいです。お金があると事業計画も立ててしまいますよね。お金がないことが一番いいことなんです。とはいえ、社会に関わるデザイン活動家というポジションに対する関心は年々増すばかりなので、形態は変わりながらもある土地や人からどうやって社会の可能性を引き出すかを考え続けたいと思います。