ファスナーの世界最大手YKKの2016年3月期のファスニング事業は、売上高が前年比109%の3410億円、営業利益が同106%の610億円の見通しになった。15年3月期に年間83億本だったファスナー販売量は約90億本に拡大したが、期初計画の92億本はやや下回った。世界のマスマーケットにファスナーを供給するYKKの猿丸雅之・社長は16年の世界のアパレル市場をどう見ているのか。
世界的な低価格品拡大は続く
今後も中長期的に世界のアパレル製品の価格は下落するというのがYKKの見方だ。そのため同社は13年度にスタートした4カ年の中期経営計画の柱に、ボリュームゾーンとファストファッション市場の攻略を掲げ、ファスナーの年間販売100億本計画をスタートした。「アパレル産業は世界的に見ると成長産業だが、その波はトップゾーンという上からではなく、低価格のボリュームゾーンという下から来る。この2年で量販店ゾーンの攻略はだいぶ進んだ」。15年は、インドネシアに設立したジーンズ用ファスナーの基幹材料である銅合金ワイヤーとスライダー工場を本格的にスタート。量販店向けの低価格帯専用のファスナー製造機も開発するなど、ボリュームゾーンへの対応が本格化した。ただ、ファストファッション攻略はまだ途上だ。「短納期でタイムリーに供給する体制は整いつつあるが、先方が望むような、こちらからトレンドとバラエティーに富んだアイテムを提案するまでにはいたってない」。上海とベトナムを中心に、生産のリードタイムを大幅に短縮するプロジェクトをスタートしており、「上海工場は、ファストファッション攻略の最も重要な戦略拠点。ここで得たノウハウを、YKKグループの他の拠点に移植する」という。今後数年で大きな影響を与えそうなのが、TPP(環太平洋経済連携協定)だ。「発効の具体的なスケジュールはまだ出ていないが、今後はますますベトナムが重要になることは間違いない。ベトナムはジャケットやブルゾンといった"上モノ"に強く、日本や米国への輸出拠点になるだろう」。