先日「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」で華々しいファーストコレクションを披露し、世界中の業界人やファッショニスタたちを魅了したヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)だが、彼のクリエイションを知る上で自身の名を冠している「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH以下、オフ-ホワイト)」は欠かすことができない。旧友ヘロン・プレストン(Heron Preston)やマシュー・ウィリアムス(Matthew Williams)らとともに「パイレックス ビジョン(PYREX VISION)」を立ち上げた後、2013年から同ブランドを始動。ストリートとラグジュアリーが今ほど蜜月な関係になる前から双方の架け橋となるようなクリエイションを発信し、ファッションシーンに大きな影響を与えてきた。
ブランド始動から3年後の16年には、アジアを中心とした海外展開の布石として東京・南青山に、香港店に続く世界2店舗目の旗艦店“サムシング&アソシエイツ” c/o オフ-ホワイト トウキョウ(“SOMETHING & ASSOCIATES” c/o OFF-WHITE TOKYO)をオープン。建築家としての顔も持つヴァージル自身が監修した店内は、1990年代のウォール街にある架空の企業サムシング&アソシエイツのオフィスをイメージし、実際に使用可能なタイムレコーダーや旧型のiMac、ウオーターサーバーが配置され、メタリックな天井はコードがむき出しでインダストリアルな雰囲気を醸し出し、壁には世界中のリアルタイムの株価が表示される液晶モニターが設置されるなど、“ヴァージルらしさ”を存分に感じることができる。
そんな旗艦店はブランドを語る上でも、ブランドの世界観を体験できる空間としても大切な場所であり、責任者である店長の存在も非常に重要だ。六車健(むぐるまけん)さんは、同店のオープン時から店長を務めている25歳の若き販売員で、もともとブランドの大ファンだったがひょんなことから店長に抜擢された。プライベートでは“欲しいモノは自作する”の精神でスニーカーのカスタマイズを行っており、それが仕事にも役立っているという。
ファッション週刊紙「WWDジャパン」6月25日号販売員特集で紹介した販売員の1人、六車健さんのインタビューをお届けする。
WWD:どういう経緯で「オフ-ホワイト」で働くことになった?
六車:専門学生時代から販売員のアルバイトをしていて、卒業後はデザイナーになる予定でした。ですが、デザイナーはなりたいからといってなれるものでもなく、いったん夢から離れ、某ブランドに入社しました。そこで1年ほど働いていたのですが、ある日、全身「オフ-ホワイト」を着ている時に学生時代にお世話になった方に遭遇したんです。その後、その方に「そんなに好きなら」ということで「オフ-ホワイト」を取り扱うイーストランドを紹介してもらい、トントン拍子に話が進み入社しました。
WWD:当時は今ほどブランドの知名度も高くないが、もともとブランドのファンだった?
六車:そうですね。インスタグラムでたまたま「パイレックス ビジョン」を知って、それからヴァージルが気になる存在になって動向を追うようになった感じです。ちょうど「オフ-ホワイト」がスタートしたタイミングでもあります。ただその頃は日本ではグレイト(GR8)くらいしか取り扱っておらず、学業第一でアルバイトをあまりしていなかったこともあって、なかなか買えませんでした(笑)。今でも「オフ-ホワイト」が好きだから「オフ-ホワイト」しか買わない、幸せ者です。
WWD:22歳ながら入社してすぐ店長に抜擢されたが、それまで店長の経験は?
六車:ありません。今でもスタッフの中で一番若く、最初は務まらないと思って辞退したんですが、「やってみろ」と言われて今日までやってきて、3年目になりようやく形になってきた感じです。というのも日本初の旗艦店なので「顧客が多い」「売り上げがスゴい」のような、“「オフ-ホワイト」の店長としてのモデル”がないんです。これから店長になる人は自分をモデルに基準を定めるわけで。だから今はその“基準を上げる”を目標に日々働いていますが、正解もないので難しいですね。
WWD:ブランドのファンは10〜20代のイメージがある。
六車:年齢層でいうと10〜50代と幅広いのですが、やはりストリートのテイストが強いブランドなので10〜20代前半の方が多いです。その中でも新規のお客さまが7〜8割程度で、「知ってはいたけどお金がなくてなかなか買えず、頑張ってアルバイトして貯めたお金を持ってきた」というように初めて働いて得たお金を使いに来てくれる方がよくいらっしゃいます。自分もそうだったのでグッときますね、うれしいです。
ちなみにですが、シーズンの立ち上がりの時や目玉商品が投入される時(インスタグラムで告知される)は、大勢の方にご来店いただけるのですが、一番スゴかったのは低価格ライン“For All”がデビューした時です。オープンから閉店までの8時間で行列が絶えることがなく、休憩も取れず店頭スタッフだけではさばききれないので急きょ本社スタッフが駆り出されるほどの人気ぶりでした。
WWD:今シーズンもっとも売ったアイテムは?
六車:これまでアパレルはどれも完売することが多かったのですが、昨年11月に発売した「ナイキ(NIKE)」とのコラボスニーカー「THE TEN」以降、「オフ-ホワイト」自体のスニーカーもスポットライトを浴びることが多くなり売れるようになりました。加えて以前までなら来店されることがなかったスニーカー好きの方々も来てくださるようになり、その方々を、プライベートでスニーカーをカスタマイズしているくらいスニーカー好きの僕が接客しているのも影響としては大きいと思います。
例えば18年春夏のスニーカー“3.0”は、サイドのステッチをたどっていくと「ナイキ」のスウッシュが浮かび上がったり、トウやラン横の部分が“エア ジョーダン(AIR JORDAN)”シリーズに似ているんですが、こういった“ウンチク”を話すとスニーカー好きだと盛り上がるんです。あと僕自身も実際に履いて、“動くマネキン”として接客しながらスタイリングも提案していることで、説得力が増します。逆にお客さまから“ウンチク”を教えていただくこともある。こうやって現場に立っていると生の情報や熱量で、なんとなく「5〜10年前に比べて今のスニーカーの熱はスゴいな」って思っていることを、実際に感じることができます。これはECにはない店頭接客の醍醐味と強みだと思っています。
WWD:10〜20代をはじめ、ECで洋服を買うのが今は当たり前の時代になっているがどう思う?
六車:ECは雰囲気が強かったり物理的に行きづらい店でも家にいるだけで買うことができるので、買い物が身近になるという点では非常に便利だと思います。でもやっぱり欲しいアイテムを買いにいったつもりが別のモノを買ってしまったり、ネットでレビューを見ると微妙だったけど実際に見ると想像以上に良かったり、販売員と話す楽しみだったりと店頭の良さを感じます。ECは便利な反面、洋服を買う時のもともとの楽しみがなくなってしまうのが寂しいですね。ヴァージルも「お店に直接来てほしい」という考えを持っていて、日本ではECをオープンしていないんです。だからこそウェブにはない接客や生の情報といったサービスを提供することが販売員にとっては重要だと思っています。(注:本国にはECサイトあり)
WWD:デザイナーになるのが夢だったというが、今後は?
六車:良い意味でステップアップしたいと思ってはいますが、今はとにかく「オフ-ホワイト」の店長として未熟なのでそれしか考えていないです。ただデザイナーになりたい夢は持ち続けていますね、諦めきれない。楽しみにしててください(笑)。