2015年に第2回「東京ファッションアワード」を受賞し、東京コレクションにも参加していた「ネーム(NAME.)」の創業デザイナー、清水則之が「ネーム」を離れ、ユニセックスの新ブランド「ウェルダー(WELLDER)」を2019年春夏から開始する。人気の「オーラリー(AURALEE)」や「キャプテン サンシャイン(KAPTAIN SUNSHINE)」を手掛ける生地問屋、クリップ クロップのもとでブランドを立ち上げており、豊富な生地背景が強みの一つ。7月17~20日の展示会を前に、清水デザイナーにブランド立ち上げの経緯や目指す形を聞いた。
WWD:順調に認知が上がってきた中で「ネーム」を離れ、「ウェルダー」を立ち上げた経緯は。
清水:方向性の違いから前ブランドを辞めたが、正直、こういう形で新ブランドを出すことになるとは思ってもいなかった。前職時代にクリップ クロップで生地を買っており、退職後に「ブランドをやらないか」と誘われた形だ。小林広文クリップ クロップ社長から言われていることは、「拾いの生地(生地メーカーが既製品として販売している生地)は使わないように」ということだけ。僕はもともと生地を見るのが好きだから、生地の開発にまで踏み込めるというのは、モノ作りの選択肢がすごく増えてとても魅力的だ。「ウェルダー」のように全アイテムで別注生地を使うということは、中小規模のデザイナーブランドでは普通はなかなかできない。
WWD:市場にファッション商品が溢れている中で、素材から開発をすることは差別化のために非常に有効だ。実際、同じ会社で手掛ける「オーラリー」もそこが人気を集めるポイントの一つになっている。素材開発はどのように進めているのか。
清水:質感や風合いについて小林社長や生地メーカーのアドバイスを聞きながら、柄や仕上げの加工について僕の意見を入れていく。服の形をどうするかは考えず、まず最初に生地を作る。欲しい質感のために原料を決め、織り方を決めていく。例えば、綿・シルク・麻のグレンチェックの生地は、オーセンティックな麻の質感を求めて行きついた。柄は、機屋のアーカイブを見ながら昔の柄から欲しいものをおこした。メンズのコート、シャツ、パンツ、ウィメンズのスカートに使用している。スーパー130のウール(非常に細いウール糸)を使い、はっ水加工で風合いを変えたタータンチェック柄は、柄の中にヘリンボーン組織を入れて独特な表情に仕上げている。こちらは、メンズのシャツやパンツ、ウィメンズのシャツ、スカートに仕立てた。
WWD:全て別注生地を使うというのは、大きな魅力であると同時に大変なことも多そうだ。
清水:選択肢がいきなり広がったので、もちろん迷った部分もある。使える素材のグレードはキリがないが、小売価格でどれくらいに収めるべきかをイメージしながら決めていった。ファーストシーズンの平均価格は、ジャケットで5万円代半ばくらい。他のブランドなら6万~7万円になっていたと思うが、生地問屋がやっているからこそ抑えられる。
WWD:もともと、パッと見て分かりやすいデザインよりも、ベーシックアイテムのシルエットを微妙に変えていくようなデザインを持ち味としている。デザイン面で注力したポイントは。
清水:素材の開発に非常に時間をかけたので、ディテールでデザインを足していくというより、素材の雰囲気が生きるよう素直に企画した。できあがった商品は既視感があるかもしれないが、生地とデザインのバランスとして見ると、新しく見えるものになったと思う。そこは作っていて楽しかった。素材もデザインも、一つ一つのアプローチとしてはあまり過剰にならず、自分にとってちょうどいいものができた。以前からシルエットのバランス感が独特と言われることがあるが、元がパタンナーなので、どこかちょっとシルエットを崩したいという意識が働いているのかもしれない。
WWD:このブランドをどのように育てていきたいのか。東京や海外でショーをすることなども考えているか。
清水:始めたばかりなので、まずは認知してもらえるように努める。環境が変わったので作るものも変わっていく部分があるだろうし、そこをしっかり安定させていきたい。その先にブランドとして何があるかは、縁とタイミングによる。僕の人生で、「なんとしてもやってやるぞ!」と意気込んでやったことで、うまくいったためしがあまりない(笑)。「ネーム」の時も、タイミングが合ったから「東京ファッションアワード」に応募して、そうしたら受賞した。それで(海外での展示会や東京コレクションでのショーなども)やってみようという感じだった。まずは数シーズン、幅広い人に新ブランドを見てもらいながら、いろいろと挑戦していきたい。