アメリカファッション協議会(CFDA)はニューヨーク・ファッション・ウイークを消費者向けイベントにすることを検討しているが、チケット業者、イベントプランナー、ダフ屋はすでにランウエイショーやバックステージ見学、デザイナーとの対面の機会をファッションピープルに提供している。
ウェブサイトのミリオネアズ コンシェルジュ、クイーンビー、チケットサプライ、トータル マネジメントは11日に始まったニューヨーク・ファッション・ウイークのショーチケットの広告を出している。トータル マネジメントは、ブランドは特定しないものの、ファッション・ウイーク中最も“アツい”とされるファッションショーの観覧を、バカラホテルの宿泊とファッションの専門家とのショッピングツアー込みで2人5500ドル(約61万6000円)で提供する。
トータル マネジメントの代表者は「取引のあるブランドからショーチケットをもらっている。広告代理店のIMGから独占的にチケットをもらえるのでIMGがスポンサーになっているショーに顧客を案内することができる。顧客が興味を持ったデザイナーをいくつか教えてもらえればIMGに空きがあるか確認し、『このデザイナーはダメだが、こちらなら大丈夫だ』という具合に回答をもらう」と明かす。
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IMGはショーチケットを提供するため数社と取引があることは否定しなかったが、チケットを販売していることについては強く否定した。「IMGはニューヨーク・ファッション・ウイークのショーチケットを売ることはしていない。第三者の業者によるチケットの売買は禁止されている。われわれは外部の企業やパートナーと協働し、サービスとしてファッション・ウイークを体験する機会を提供している。ただ、現場の判断でそれがファッションショーの観覧を含むものであることも場合によってはあるかもしれない」とIMGの広報担当者は語る。
ファッションショーをはじめ、ワールドカップや国際映画祭といったイベントを宿泊・移動・チケット込みのパッケージで提供するオン ポイントに対してチケット販売を行うある事業者は「普通のデザイナーでは950ドル(約10万6400円)程度だが、『ビーシービージーマックスアズリア(BCBGMAXAZRIA)』のような人気ブランドの場合3500ドル(約39万2000円)にのぼることもある」と話す。オン ポイントは顧客に対しファッション・ウイークの1週間前までどのショーチケットを確保できるか伝えることはなく「2週間後のチケットはチケット業者の裁量次第のため、一層高価なものとなる。ショーチケットは一般販売されていないためプレミアがつくのが実情だ。チケットは業界内の人間からもらっている」という声も聞かれる。
ロックフェラーセンターのツリー点灯式やタイムズスクエアの年越し祭を手掛けるユア ビップ パスの創業者ビバリー・サンブロットは「ファッションショーチケットの流通市場は確かに存在する。3500ドル(約39万2000円)が相場だが、この価格はメジャーなデザイナーに対するもので、チケットによっては非常に高価なものもある」と言う。
オランダにあるプロバイディング チケットという企業もニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリで行われるファッションショーを1人1ショーにつき3500ユーロ(約44万1000円)程度で仕入れている。同社のウーター・ハイツマ=オーナーは「ショーの観覧希望者には検討と承認のための材料として書類の提出を求めている。チケットは招待されるか、またはデザイナーから入手している」と話し、チケット販売からデザイナーが利益を得ているかとの質問に対しては「得ている」と回答した。
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800ドルの値がついた「ザック・ポーゼン」
VIPコンシェルジュは2月15日に行われる「ザック・ポーゼン(ZAC POSEN)」のショーをバックステージ見学とデザイナーとの対面込みで1750ドル(約19万6000円)でウェブサイトで販売する。「デジタルのチケットだろうが紙のチケットだろうが、ホテルに直接お届けする。フロントローは約束できないが、良い席を確保する。『ザック・ポーゼン』『ビーシービージーマックスアズリア』『レベッカミンコフ』のチケットは入手可能だ。ただ『カルバン・クライン』は値が張るがね。今後ミラノ、パリと拡大していく予定だ」と同社の代表者は語る。
ただ、ザック・ポーゼンのセリーヌ・マリトン=ヴァイス・プレジデントはVIPのウェブサイトについて「憂慮すべき事案だ。われわれはアメリカン・エキスプレスと提携しているが、チケットそのものは販売していない。昨年アメリカン・エキスプレスの会員向けにファッションショーを行った際、そのチケットがクレイグズリスト(米国の情報交換サイト)で800ドル(約8万9600円)で取引されていたことが発覚した」と気色ばむ。
「プラダ(PRADA)」 「ケイト・スペード(KATE SPADE)」「ジミー・チュウ(JIMMY CHOO)」などのクライアントを抱えるCSグローバルのジョナサン・リード最高経営責任者(CEO)は「チケットが販売され、転売されているということは、CFDAがショーをより消費者向けのものにしようとしていることを支持するものだ。CFDAは時代の趨勢に足並みをそろえている」と説明する。CFDA議長のダイアン・フォン・ファステンバーグは、「CFDAがファッション・ウイークを改善しようとするのはわれわれの産業を守るためだ。つまるところファッション産業はビジネスであり、肝心なのは顧客に彼らが求めるものを与えること。だからすべて協調してやっていかなければならない」と語る。
先に登場したサンブロット=ユア ビップ パス創業者は昨年、自身がプロデュースするファッションショーを行うことを決め、9月にはカーネギーホールの屋上庭園でブライダルデザイナーのリタ・ヴィニエリスを起用したショーを開催した。今年の9月にもショーを実施する予定。「われわれの目標はチケット価格を安く抑えること。1人あたり200ドルしていたものを将来的には100ドルにする。一般的な消費者がファッションショーを体験するチャンスを与えられる」と話した。
「WWDジャパン」2月22日号に掲載