ファッション

ベルリンの「ブレス」住人兼店長の日本人に聞く 「ショップに住むってどんな感じ?」

 ベルリン発のデザイナーズブランド「ブレス(BLESS)」は、外からは分からないアパートの一室にショップ、ブレスホームベルリン(BLESS HOME BERLIN)を構えている。ブランドの世界観が詰まったその空間は、ファンならば一度は訪れたい場所。実際、来店客の半数は国外からだという。そして、そのロケーションのみならず、来店には事前のアポが必要であったり、営業が水〜土の限られた時間だったりと、一般的なショップとは大きく異なる。

 そんなユニークな店舗は実際に住居としても使われており、これまでライターや建築家、写真家など別の肩書きを持つ人たちが住みながら、店舗を運営してきた。そこで2月から暮らしているのが、美容師としての一面も持つ杉原博之さんだ。現在はブレスホームベルリンでヘアカットをしたり、撮影の仕事をしたりしながら、ショップマネジャーとしてほぼ1人で接客を行っている。

 ファッション週刊紙「WWDジャパン」6月25日号販売員特集で紹介した販売員の一人、杉原博之さんのインタビューをお届けする。

WWD:「ブレス」との出合いは?

杉原博之ブレスホームベルリン住人兼ショップマネジャー(以下、杉原):日本にいる時からもちろん「ブレス」のことは知っていましたが、そこで働くことになるとは思ってもみませんでした。渡独後は、フリーランスでヘアメイクの仕事をしていたのですが、知人がきっかけでベルリンにある「ブレス」のスタジオでインターンをすることになり、デザイナーの一人であるイネス・カーグ(Ines Kaag)と出会ってブランドの魅力を実感していきました。その後、展示会でコラボレーションをしたり、土曜だけショップでヘアカットを行ったりするようになったことに加え、当時のショップマネジャーがフォトグラファーだったので、長期で留守にするときなどに店の運営を手伝うように。ショップマネジャー入れ替えのタイミングで後任のオファーをいただき、やってみようと思いました。

WWD:アパートの一室というのは、かなり変わったコンセプトだが。

杉原:通りすがりの誰でも入れるような典型的なショップにしたくなかったというデザイナーの思いがあります。店の在り方自体がこういう形なので、“接客をする”というよりも“自分の家に友人を招き入れる”感覚ですね。

WWD:店に住むとはどんな感覚なのか?

杉原:ギャラリーや美術館に寝泊まりしている感じです。ただ必要以上に気を使うことはなく、普通に料理もしますよ。ここでの生活に「ストレスを感じないのか?」と聞かれることも多いですが、むしろストレスがあったらこんな暮らし方はできないと思います。1つ不満を挙げるなら、洗濯機がないことくらいですかね(笑)。

WWD:来店するには、事前にメールでアポをとる必要があるのもユニークだ。

杉原:そうですね、ブランドの精神やエネルギーの源を感じられる特別な空間なので、ギャラリーで作品を見るようにゆっくり過ごしてほしいです。そのため、一度に大勢が来ないよう日時を調整していますし、お客さまがプレッシャーを感じないような距離感を大切にしています。つまり、必要なサポートはしつつ、それぞれが見たいものをそれぞれのペースで見てもらうのがいいと考えています。また、「似合うかな?」と意見を求められることも多いので、そういう時は率直に自分の考えを伝えます。

WWD:日頃から心掛けていることは?

杉原:いつ来店してもこの空間を楽しんでもらいたいので、店(家)のレイアウトは最低でも月1回は変えるようにしています。なので、事前にアポを入れるシステムではありますが、気負うことなく家を訪ねる感覚で気軽に遊びにきてほしいですね。

WWD:美容師の経験が生かされていると感じることは?

杉原:直接的に結び付いているとパッと思いつくことはないですが、全てはつながっているし、生かされていると思っています。東京での美容師時代、一番に考えていたのは“お客さまをかっこよくしたい、かわいくしたい”という気持ち。その結果、代金をいただけるのであって、頭の中で売り上げが先になってしまったら、うまくいかないし、それは相手にも伝わってしまう。販売でも同じだと思います。「ブレス」では空間をまず楽しんでもらって、その結果、好きなものを見つけてもらえたらうれしいです。それがお互いにとっていいのではないでしょうか。

WWD:リアルな空間を大切にしているように感じるが、公式ウェブサイトでの販売も行なっている。オンラインショッピングに対する意見は?

杉原:あまり時代を気にせずにやっているのが「ブレス」のいいところですし、オンラインショッピングが普及する前からずっとこのような店の在り方を続けてきました。その一方で、オンラインショッピングが普及したことは、「ブレス」にとってプラスにもなり得ると考えています。一度来店されて、また来たいけど来られない方が、新しいアイテムをチェックしたり、購入できたりできるという点はいいですよね。ただ、一番重要なのは、やはり肌で感じるリアルな体験。世界中にファンがいて、ベルリンとパリにしかショップがないからこそ、この場所に来る価値や必要性を見出してもらえているのだと思います。半年に1回ベルリンを訪れるたびに会って話すのが楽しみだと言ってくださる方もいて、それはこういう店ならではだと感じますし、うれしいですね。

WWD:ベルリンで働くことの良さとは?

杉原:柔軟性があって、自由なところです。日本だと美容師は拘束時間が長いので、他の好きなこともできる今の働き方は考えられなかったです。今は、休暇も1カ月くらい取っていますし。街自体でいうと、人が寛大で、国外から来た人を受け入れる体制ができているように感じます。それに、皆それぞれが自分の時間を楽しんでいるのがいいですね。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

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