ファッション

ベルリンの高感度セレクトショップで働く日本人が明かす 世界で通用する接客術

 アンドレアス ムルクディス(ANDREAS MURKUDIS)は、「セリーヌ(CELINE)」や「JIL SANDER(ジル・サンダー)」「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)から「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」「カラー(KOLOR)」といった日本ブランドまでを取り扱うベルリンきっての高感度セレクトショップだ。その店頭に立つ高橋慎二さんは、2007年にロンドンの「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」で働き始めて以来、老舗セレクトショップのブラウンズ(BROWNS)や「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」などに勤め、海外で10年以上販売員としての経験を積んできた。そもそも彼はなぜ海外で販売員として働く道を選んだのか?そして、世界のさまざまな国から訪れる顧客と信頼関係を築く秘訣とは?

 ファッション週刊紙「WWDジャパン」6月25日号販売員特集で紹介した販売員の一人、高橋慎二さんのインタビューを通して、インターナショナルな接客術に迫る。

WWD:海外で販売の仕事をしようと思ったきっかけは?

高橋慎二アンドレアス ムルクディス パーソナルスタイリスト(以下、高橋):そもそも海外に出ようと思ったのは、語学を学びたかったから。東京にいた頃、「ギャップ(GAP)」で1年弱販売員をしていたこともありましたが、もともと販売の仕事にはあまり興味がありませんでした。ですが、学業を支えるために仕事をする必要があり、ロンドンでは「ヴィヴィアン・ウエストウッド」で働き始めました。そして、お店でいろんな方と知り合う中でどんどん楽しくなっていきましたね。特にこちらのお客さまは、感情表現がとてもダイレクト。自分がオススメしたアイテムを喜んでくれたり、実際にそれを着て戻ってきてくれたり。そういうのを見ると、販売員をやっている喜びを感じます。

WWD:「ヴィヴィアン・ウエストウッド」では6年半働いていたというが、一番印象に残っている思い出は?

高橋:働き始めて1年ほどが経った頃、「ゴールドレーベル」(クチュール専門)のショップにヴィヴィアンさんが突然来て、きれいにディスプレーされたドレスや靴をいきなりカーペットが敷かれた床に投げたり、真っすぐに置かれていたソファを動かしたりし始めたんです。そして、「そんなに堅苦しく突っ立ってないで、ソファや床に座って、リラックスしながら世間話をしていてもいい。私が『ワールズエンド(WORLDS END)』で自由に働いていたように、皆にも自由なスタイルでこのショップにいてほしい」と言われました。その言葉がきっかけで、肩の荷が下りた感じがしましたね。それから「マニュアル型の接客じゃなく、自分の国籍や個性、特技を生かした自由な接客をしてもいいんだ、その方がむしろお客さまに喜んでもらえるんじゃないか」と考えるようになりました。

WWD:語学の習得はどのようにして?

高橋:「ヴィヴィアン・ウエストウッド」で働き始めたときには英語はある程度話せました。ただ、イギリスは地方によって強いアクセントがあるので、いろいろな地方からの電話での問い合わせに対応しなければいけないなど、日々の業務の中で鍛えられましたね。ベルリンに移ってからも、最初の1年はドイツ語のレッスンに通い、基本的な会話を習得しました。ただ、英語も話されるお客さまが多いので、普段の接客は英語を使うことが多いです。

WWD:海外で働いてみて難しいと感じた点は?

高橋:お客さまというよりもスタッフとの関係ですかね。今のお店もドイツだけでなく、トルコやオーストラリア、シンガポールなど国籍が豊かなので、宗教や文化も違います。ポッと言ってしまったことが不用意に相手を傷つけてしまうこともあるので、気を付けるようにしています。

WWD:逆に日本と比べて楽だと感じるところは?

高橋:こちらのお店では、お客さまへの話し方や接し方にマニュアルのようなものはなく、個性も尊重してもらえます。それに英語での接客は、日本語での接客のようにかしこまらず、ある意味友人のように話せるところがいいと思います。まずハグから始まることもありますからね(笑)。スタッフの上下関係もあまりないので、上司との距離も近く、家族のような存在です。

WWD:接客において日ごろから心掛けていることは?

高橋:世界中からお客さまが来られるので、会話をいかに広げて続けるかということを心掛けています。そのため、世界のさまざまな国で起こっていることや流行っているものを知るようにしていますし、なるべくその国を実際に訪れて、体感するようにしています。「今度あのレストランに行ってみたいんです」など、会話の中でお客さまの母国の話題があると、一気に距離が近づきますね。そして、もともと語学が好きというのもありますが、会話のきっかけとして、いろんな言語の簡単なあいさつも覚えるようにしています。そうすることでお客さまからも自分のことを覚えてもらいやすいですし、これは国外から来ている自分ならではの方法かなと思います。また、お礼などのメールを送る際も形式的なものではなく、来店時にお話しした内容を交えて、よりパーソナルなコミュニケーションを意識していますし、日本に行かれるお客さまにはオススメの場所をお知らせしたりもします。

WWD:世界に顧客を抱える店ならではの顧客へのフォローアップ方法は?

高橋:2月から「WhatsApp」を使用したコミュニケーションを始めました。すぐに来店できない遠方のお客さまも多いので、新商品情報の発信に加え、オンラインカスタマーサービスのように活用しています。なるべくリアルタイムで質問や購入依頼に対応するようにしていて、特にヨーロッパ圏外のお客さまからの反応はとてもいいです。その他、よく購入される方に対しては、「ドロップボックス」を使ったサービスも行っています。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。

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