「WWDジャパン」のご意見番、三浦彰・編集顧問が、最新号の中から気になるニュースをピックアップして解説します。今日は7月2日号から。巻頭特集は「2019年春夏メンズコレクション速報」です。
日本人の若手デザイナーには何が足りないのか?(P.26)
「トゥ・エ・モン・トレゾア(TU ES MON TRESOR)」のデザイナーの佐原愛美さんはなかなか知的な女性のようだ。2018-19年秋冬はフランスのアルフレッド・ジャリ(Alfred Jarry)作の風刺演劇「ユビュ王」がテーマというが、偶然知っていたのではないだろうから、かなりのインテリジェンスだ。私はカロル・シマノフスキ(Karol Szymanowski)のオペラやベルント・アロイス・ツィンマーマン(Bernd Alois Zimmermann)の音楽で知っているぐらいである。この際ハッキリ言っておくと、日本の若いデザイナーに足りないのは、「知性」と「根性」の2つである。佐原さんのインタビューを「WWD JAPAN.com」の記事と併せて読んでみると、この2つを兼ね備えているようで実に頼もしい。パール刺しゅうのデニムはこれが初めてではなくて、どこかで見たことがあるが、それでも新鮮に映る。一度、展示会をのぞいてみたいと思わせた数少ないデザイナーだ。
J.フロント リテイリングの不動産事業の核心は何か?(P.4)
掛け率商売(納入業者とは掛け率で商売をする)がメーンの百貨店でいち早くモール化(テナントは家賃を支払って商売をする)を進めてきたのがJ.フロント リテイリングということになるだろう。その代表的な成功例はギンザ シックス(GINZA SIX)だ。百貨店がバブル経済崩壊(1990年以降)で大失速したのは、売り上げが減少していく中で掛け率商売を続けたことが最大の原因であろう。家賃がきっちり入るテナントビジネスならば、売り上げの減少にスライドして差益が減ることもなかった。逆に売り上げが毎年大きく増えるような場合は、掛け率ビジネスが大きな差益をもたらすわけだ。自明の理だ。それとは別に、ここで詳述されている心斎橋エリアでJ.フロント リテイリングが進めているラグジュアリー・ブランドとの外商カード連携戦略も、本格的に活用しているのは同社だけで、このアーバンドミナント戦略は他百貨店に大きく水を開けそうだ。
ワールド再上場の本当の狙いとは?(P.5)
ワールドの2005年の非上場化(MBO)は単純に「意思決定の迅速化」「軸足を長期戦略に移す」ということだけではなかったのだが、まあそのあたりはおくとして、そのために借り入れた資金は2200億円余り。日本が超低金利時代に突入していたために可能だった話である。15年に始まった上山健二・社長による業務改革も大きな成果を上げ始めている現在、早急にこの借り入れを消したいとなると再上場が最も手っ取り早いということになる。上山社長の4つのセグメント(ブランド事業、投資事業、デジタル事業、プラットフォーム事業)による4本足打法でアパレルメーカー、ワールドは今後10年で大きく姿を変える可能性がある。
米国のザ・リミテッド(現Lブランズ)がアパレル事業を売却してその主力がセクシーインナーウエアの「ヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA’S SECRET)」になったような、あるいは現在のベネトン(BENETTON)社の主力がすでにアパレル事業ではないような大変身がありそうだ。再上場はその第一歩だろう。