情報が右から左へどんどん流れていく現代社会に生きる私たちは、何に心をつかまれて、立ち止まるのだろう。めまぐるしいスピードに、呼吸をすることさえ忘れてしまいそうだ。
そんなネット社会の発達で、紙媒体からウェブに移行したり、新たなウェブ媒体ができたりする今日だが、発信するだけではなく読者を巻き込むスタイルとキュレーションで独特の世界観を作っているウェブマガジンがある。
“自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティ”をうたう「シーイズ(She is)」(CINRA)だ。毎月変わるテーマに沿い「ガールフレンド(Girlfriend)」と呼ぶコントリビューターたちからの声を集め、“生き方”に焦点を当てた文章を発信する。読者からもコラムやエッセイを募集し、月額3500円の有料会員「メンバーズ」になれば月に1回ギフトも届く。
時は1年前に遡る。「シーイズ」を知った2017年6月、早速メールマガジンの登録をした。初めて届いたメールマガジンには、「想像していたよりもずっとたくさんの反響をいただいて、アンケートの言葉のすべてにピカピカ発光する明るい変化の予感があって、始めることにしてよかったと編集部一同強く思っています」と冒頭にあいさつがあった。このテキストを読んだ瞬間、編集部の熱量が画面越しにじわっと伝わり、私のiPhoneまで発光したように見えたのだから本当に不思議だ。ウェブからこれだけの思いが伝わってきたのは初めての体験で、新しいものが生まれるというワクワク感が止まらなかった。
3号目が届いたのは、17年8月。1号目で募集したお題に対しての読者からの回答を抜粋して紹介していた(「みんなの #無敵かもしれない夜」企画)。驚いたのは、その回答に対して「シーイズ」からの“返信”がついていたこと。その優しく語りかけてくれるような言葉の連なりを読み進めていくうちに涙がこぼれた。ものすごく孤独な夜にそっと誰かが頭をなでてくれるような、そんな気持ちになれた。そしていまだにその時の感情が忘れられずに、毎月の特集を楽しみにしている。
CINRA社内の別の部署で働いていた野村由芽さんと竹中万季さんが以前から温めていた企画を、あるきっかけで社内に提案したのが「シーイズ」の始まりだった。「これからどう生きていくか、働いていくかを考えた時に、いろんな選択をしていいはずなのに答えが決まっているような、前提があるような感じがしていて。私たちにも正解がないと思っていることを、多くの声を集めることで考える場所にしよう、思いが集まる場所にしようということをずっと話していたんです」と2人は立ち上げの経緯を振り返る。
「ガールフレンド」たちへは、初期の頃から声掛けをしていたという。一時的に寄稿をしてもらう関係ではなく、継続的にこの場所を一緒に作っていきたいという強い意志が感じられるエピソードだ。「シーイズ」に招くときは招待状も作成し、温度が伝わるような場所作りを徹底している。
毎月特集を決めてキュレーションする手法は、非常に“雑誌的”な造りだ。私とも世代が同じ2人は、毎月の雑誌を楽しみに育ってきた最後の世代だと思う。「高校生の時に読んでいた雑誌は、いろんな選択肢があるということを教えてくれた場だった」と話すのは野村さん。「雑誌から学んだこともインターネットを通じて感じたことも両方取り入れたかった」と話す竹中さんは、インターネットの中にある、誰だかわからないけれどものすごく小さな強い光に心を動かされていたという。雑誌の面白さもウェブの魅力も、多感な時期にリアルに体験してきたからこその編集方法だと感じる。
メッセージで始まる特集の入り口に、大切な女友達から手紙を受け取ったあの頃の記憶を思い出す。特集内容も幅広く、「Dear コンプレックス」「ははとむすめ」など一見目をそらしたくなるようなテーマも読者に投げかける。「ガールフレンド」の声は、ときに母親のようであり、先輩のようでもあり、恋人のようでもあるように感じる。共感してくれて、進めと背中を押してくれて、叱ってくれる。そして時に甘やかしてもくれる。考え方も受け止め方も、自由だ。まさに、人それぞれの生き方を許容してくれる、あたたかい場であり存在なのだ。
画面の向こうに感じる熱に、ふと立ち止まる。それは、読み手の心の声をすくい上げようという編集者の思いがあるからではないだろうか。そしてその思いが言葉に変わり、受け止める私たちの背中をいつだってそっと、押してくれている。
高山かおり:北海道生まれ。北海道ドレスメーカー学院卒業後、セレクトショップのアクアガールで販売員として勤務。在職中にルミネストシルバー賞を受賞。その後、4歳からの雑誌好きが高じて転職、2012年から代官山 蔦屋書店にて雑誌担当を務める。主に国内のリトルプレスやZINEの仕入れを担当し、イベントやフェアの企画、新規店舗のアドバイザー業務(雑誌のみ)、企業・店舗などのライブラリー選書、連載執筆など幅広く活動。18年3月退社。現在は編集アシスタントとして活動しながら本と人をつなげる機会を増やすべく奔走中。