「イッセイ ミヤケ パルファム(ISSEY MIYAKE PERFUMS)」は、資生堂銀座ビルで7月26日まで夏限定フレグランス「ロードゥ イッセイ サマーオードトワレ」のボトルやパッケージなどのビジュアルデザインを担当した2人のアーティストによる特別ウインドーディスプレーを展示している。LA在住のフランス人グラフィックアーティストのティルサ(Tyrsa)、パリ在住でファッションメゾンの広告ビジュアルのセットやショーの装飾などを手掛けるアーティストのアリス・オーボワロン(Alice Auboiron)に、制作過程を振り返って着想源やクリエイションに込めた思いについて聞いた。
WWD:今回のプロジェクトの依頼を受けたときにどのように感じたか?
ティルサ:日本の文化をかねてから愛していましたし、デザイナーの三宅一生氏は伝統的な素晴らしい日本の文化を近代的に革新した1人で、その仕事ぶりに感銘を受けていました。私の作品の、伝統的なタイポグラフィーをモダンに使う姿勢にも通じるところがあると感じたので大変光栄に思いました。
アリス・オーボワロン(以下、オーボワロン):「イッセイ ミヤケ」はクリエイティブでデザインを大切にしているので、私も非常にうれしく感じました。
ティルサ:私が子どもの頃に父が「ロードゥ イッセイ」をつけていたので、その頃の思い出が蘇ってきました。この香水には強い愛情を持っています。また、“イッセイの水”というネーミングも素晴らしいですよね(「ロー」はフランス語で「水」の意味)。フランス人の耳には、長い冒険旅行を意味する「オデッセイ」とダブルミーニングで言葉遊びをしているように聞こえます。
WWD:ボトルやパッケージのデザイン、インスタレーションのテーマは?
ティルサ:一番初めに「ロードゥ イッセイ サマーオードトワレ」について、パッションフルーツとライチを強調したフレッシュでエキゾチックな香りであることなど、製品に関する説明は受けましたが、創作についてはまったく制約がなく、自由に発想してほしいということだったので、私たちからアイデアを提案しました。
オーボワロン:共同作業は非常にスムーズに進みました。彼のタイポグラフィーの世界と私の植物を使ったアートの世界を融合しながら、閉じられた世界ではなく躍動感のあるものにしようと考え、「自然に開かれた窓」が中心的なテーマとなりました。タイポグラフィーはデザイン性があり、純粋なものを示すことができます。一方で、植物や自然は有機的なもの。それぞれが互いに補い合って生まれたテーマです。
ティルサ:自然は自由で有機的なものであるからこそ、タイポグラフィーでそれを閉じ込めて枠組みを作る必要があります。しかしながら単に枠組みを作るだけではなく、自然が持つ軽やかさや躍動感を保ちたかったのと、そこから飛び出せる自由のメタファーとして、「自然に開かれた窓」というテーマにしました。私はタイポグラフィー、彼女は植物とデジタルという専門性の高い分野をそれぞれに尊重しつつ、非常に早い段階から互いに信頼し合って同じ方向を向いて創作することができました。
WWD:実際のデザインはどのように進んだか?
ティルサ:まず私が文字の下書きをして、その下書きをもとにアリスがどのように植物を絡められるか考えました。その後は行ったり来たり。彼女が出したアイデアを見て、この文字の配置をもう少しずらそうとか。最後に色付けをしたのはアリサです。そうして平面で考えたアイデアを次は立体にしました。白い人造大理石を文字の形にデジタルカットして窓を作り、その向こう側から本物の植物を絡めていく。さらに、それを写真に撮り、それをもとに再びタイポグラフィーを描き直して平面にデザインしました。それが最終的にボトルやパッケージに印字されています。
オーボワロン:最初にお話しをいただいたのは1年半ほど前で、制作期間は8カ月ほどをかけましたが、オードトワレの世界観やコンセプトを表現できました。洗練された日本の文化は、ディテールを大切にする心など自分たちと共通するものがあると感じます。今回のディスプレーでも、「ロードゥ イッセイ サマーオードトワレ」の世界観を現実のものとして東京の街で表せたことをとてもうれしく思っています。