昨今、若者を中心に人気が急上昇しているメンズブランドがロンドン発の「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」だ。ロンドンをはじめ、日本のストリートでも“MARTINE”のロゴ入りウエアを見る機会が多くなっており、最近ではアイウエアの「マイキータ(MYKITA)」やイタリアのスポーツメーカー「ナパピリ(NAPAPIJRI)」との協業も成功させている。今、注目すべきメンズブランドの一つであることは間違いない。6月に行われた2019年春夏シーズンのロンドン・メンズ・コレクションの中でも、ショー会場は最も熱気に包まれていたといっていいだろう。カムデンの閑静な住宅街というロケーションにも関わらず、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」で初のショーを控えたヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)やルカ・サバト(Luca Sabbat)ら著名人の他、そこに住む子どもやデザイナーの家族まで、大勢のゲストが訪れた。
ビジネスも現在世界で約100アカウントの卸先を有し、日本ではドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)や伊勢丹新宿本店、インターナショナルギャラリービームス (INTERNATIONAL GALLERY BEAMS)、アディッション アデライデ(ADDITION ADELAIDE)、リステア(RESTIR)など有力ショップを含む約20アカウントで取り扱われ、知名度を徐々に広げている。
デザイナーのマーティン・ローズは、自身のブランドやデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)率いる「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のメンズのコンサルタントを務め、私生活では2児の母親でもある。「マーティン ローズ」のルーツや、「バレンシアガ」との役割をどう両立させているのか。また住宅街で披露したコレクションの意味とは。ショーの直後、彼女は温かい笑顔で語ってくれた。
WWD:2019年春夏コレクションはウエアや演出など、多様性を主張しているように思えたが?
マーティン・ローズ(以下ローズ):ロンドンは今、大変な時期を迎えています。だからこそ人々のつながりが必要だと思いました。私はファッションと音楽には人と人をつなげ、あらゆる物事を一つに包み込んでくれる力があると信じています。大変な時期だからこそ、ファッションと音楽で一体感を生み出したかった。今回のコレクションは、私からロンドンへのラブレターなのです。
WWD:ショー会場にカムデンの住宅街を選んだのはなぜか?また座席にバイヤーやエディターに加えて、地元の人たちをミックスした意図は?
ローズ:ローカルのコミュニティーに焦点を当てたかったからです。カムデンの平凡な住宅街を会場に選び、ローカルな雰囲気を生かしました。私の家族や近所の住民の方たちも招待し、バイヤーやエディターなども関係なくミックスしたシーティングで一体感を演出しました。ショーに登場したコレクションも、ロンドンの音楽や暮らす人々のキャラクター、そして街のさまざまな要素がインスピレーション源になっています。
WWD:「マーティン ローズ」のウエアはスタイルやカルチャーなど、さまざまな要素が融合されているが、どういう感覚でミックスしている?
ローズ:私のブランドは一つの要素ではなく、多くの異なる物事の集合体です。常にたくさんの人々やキャラクター、モノからクリエイションのヒントを得ています。カムデンの街中を歩いたりクラブに行ったり、ラジオを聞いている時や読書の時も、またバスに乗っている際でも、日常のあらゆる状況から着想しています。色々な要素の融合が新たなクリエイションを生み、それらが少し不自然にミックスされるときこそ面白いモノができると思っています。
WWD:デザインする際にどのような人たちを思い描いている?
ローズ:特定の人を思い描いているわけではなく、全ての人たちに向けてデザインしています。人種や性別、年齢、職業などは関係ありません。「マーティン ローズ」が好きな人全員に着て欲しいし、誰でも着られる服を作っているつもりです。実際、私の父親も着ているぐらいですから。
WWD:「マーティン ローズ」と「バレンシアガ」のデザインを手掛けるうえで異なる点は?
ローズ:リサーチをする段階からすでに「バレンシアガ」と「マーティン ローズ」のアプローチは異なり、アイデアを使い分けています。テイストは違いますが、両ブランドには同じぐらいの愛情を注いでいます。共通しているのは、“インスタ映え”を意識した服作りはしないということ。SNSが現在のファッション業界に大きな影響を与えていますが、まだ使いこなせていない私にとっては、SNSはエイリアンのような存在なのです(笑)。
WWD:ファッションの道に進もうと思ったきっかけは?
ローズ:幼い頃から常に洋服と音楽には興味があり、その2つの関係性についてもとても関心がありました。当時は家に親戚がよく出入りしていたので、大人数の家族に囲まれて生活をしていました。いつも皆がドレスアップして出かけて行くのを観察していました。彼らが何を着てどこに出かけていくのか、なぜその服を選んだのか。そんなことをよく考えていました。ファッションを仕事にしたいと思ったのは、大人になってからでした。
WWD:仕事と子育てをどのようにして両立させている?
ローズ:理解のある家族や素晴らしい友人たちがいつもサポートをしてくれているので、母親とデザイナーを両立できています。たくさんの人たちが協力してくれる恵まれた環境で、本当にラッキーだと思います。
WWD:出店も含めた、今後のビジネスの展望は?
ローズ:“ゆっくり、着実に”が私たちのビジネスのやり方です。しかしありがたいことに需要は高まり続けており、拡販する時期にさしかかっていると考えています。だから現在は既存アカウントを大切にし、毎シーズン新規店舗を開拓して顧客層を広げる努力を続けています。直営店出店については、今は答えられません。
WWD:日本でも徐々に「マーティン ローズ」を着た若者が増えている。日本のマーケットの印象は?
ローズ:それは嬉しい! 東京でのビジネスは順調なので、今後は東京や大阪、名古屋など主要都市以外にもアカウントを増やしていきたいです。セールスチームは何度か日本を訪れたことがあり、日本のメンズ市場はすごくスペシャルだと聞いています。私はまだ日本に行ったことがないので、機会があればぜひ行って日本のカルチャーに触れてみたいです。