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「わからないことを恐れるな」 94年生まれの枝優花・監督が映画を通じて伝えたい思い

 枝優花・監督がクラウドファンディングで資金を集めて制作した映画「少女邂逅(かいこう)」が公開中だ。同作は映画監督の枝優花 とシンガーソングライターの水本夏絵がタッグを組み、音楽と映画のコラボレーションイベントを開催するMOOSICLABの支援のもとで、映画制作のための資金をクラウドファンディングで集めたもの。枝監督が14歳の頃の実体験をもとに“いじめと癒やし”をテーマに制作されたもので、「ミス iD2016 グランプリ」の保紫(ほし)萌香とモデルのモトーラ世理奈を主演に起用して話題となった。枝優花・監督はどのような思いで映画を撮るのか。

WWD:枝監督は小さい頃から映画監督に憧れていたんですか。

枝優花・監督(以下、枝):全然思っていなくて。小学生の頃、田舎に住んでいたこともあって、娯楽といえば映画を見にいくことくらいだったんです。小学生になっても友だちが少なくて、DVDというものに出合って、週末はお家で映画ばかり見ていました。なので、映画は好きだったし、映画に限らずテレビとか画面の向こうはずっと気になっていました。それで小学5年生の時に東京から演劇の先生が来るということを回覧板で知って、10人くらいのワークショップに参加したんです。先生は当時27歳、私は11歳です。そのまま高校生になるまで、映像演劇を教わることになりました。

WWD:映画を制作するということを意識し始めたのはいつですか。

枝:大学から映像サークルに入りました。4年間の猶予が欲しくて東京に出て大学に入ったんですけど(笑)、監督はもちろん、配給でもいいから、何かしら映画に関わりたいと思うようになりました。一通り学生の間に経験して、一番現場が楽しいなと思いました。

WWD:卒業後はそのまま映画監督という仕事に就くと?

枝:思ってなかったです。親から反対されていたこともあって、何か確信が持てない限りはやめようと思ってました。それで、自分の映画で何か賞でも取れれば頑張れるかもしれないと思って、学校のコンペティションに応募したりしていました。そんな中で松居大悟・監督や三浦大輔・監督が作品を評価してくださって、すごく自信になりました。

WWD:初の長編映画「少女邂逅」はクラウドファンドで話題になったわけですが、どうして資金調達をしようと思ったのですか。

枝:大学を卒業したあとは演劇のアシスタントなどで食いぶちを作っていたのですが、「少女邂逅」の段階で本格的に監督をやろうと思いまして。なので、本当にお金がなかったんです。制作費はこれまで学生の間に貯めたお金を使おうと思ったんですが、足りない部分をクラウドファンドで集めることにしました。クラウドファンドのいいところは、制作段階からある種の宣伝ができるところですよね。インディーズ映画は規模も小さくて、もちろん宣伝部なんてつけられないので、応援をしてもらえるプラットフォームはすごくありがたいなと思いました。

WWD:実体験がストーリーのもとになっているんですよね。

枝:はい。14歳の頃の実体験がもとになっているんですが、18歳の時にだいたい脚本を書いていたんです。でも、その時にはまだ映画にできないと諦めて、22歳でようやく作ることができました。でも、困ったことに、18歳の時は内容をまだ実体験として感覚的に覚えていたのに、22歳になったらあの時の苛立ちとか不安とか、何に絶望していたかとか、覚えていないんですよね。ゾッとしました。感情とか感覚って平気で忘れるんだなって。去年すごくいろんなことが重なったこともあって、「本当に今年撮りますか?来年でもいいですよ?」と助監督に言われた時に、「1年後だと大人になっちゃうかだダメだ」と思って。今の感情のまま撮らなきゃいけないと思いました。

日本では“売れるための映画”が主流に

「少女邂逅」の予告映像

WWD:そもそも、どのような思いで映画を作るのですか。

枝:私は10代の頃に見た映画で自分の人生をひっくり返されたので、「映画を見て私も作りたくなった」とか、そんなに大きな話でなくても「学校に行きたくなかったけど、明日は行ってみようかな」とか、そんな小さな変化を起こしたいんです。万人に受けるということは考えていなくて、「少女邂逅」は14歳の頃の自分を救いたいという思いで作りましたが、「あの子に刺さったらいいな」という個人に向けて作っています。

WWD:若者を取り巻く環境が変わる中で、映画ビジネスも変化してきたのでしょうか。

枝:映画は目で追うメディアなので、ザッピング(チャンネルをコロコロ変えながらテレビを見ること)で見られるものじゃないんですよね。だから映画は映画館で見てほしいんですが、そもそも今の日本の映画って感情のレールに乗せてくれるものが多いように思うんです。そういう映画は映画館で見て、帰りのエレベーターまでは覚えているんだけれど、外に出ると何も残っていなかったり。上海の映画祭に行った時にも「今の日本の映画には魅力を感じない。繊細さもないし、何も伝わってこない。これが良しとされている日本においてあなたが少女映画を撮ることに意味がある」と言われて少しショックでした。今の日本にはオリジナル映画が少なくて、確実に売れる漫画原作の映画が多いように感じます。

WWD:日本では“売れるための映画”が主流になっていると。自分で考えなくてもストーリがわかるということですね。

枝:「装苑」で1年間コラムを書いているんですが、担当の方にテーマについて考えていることをいろいろ話したら、「枝さんが言うこと全部『君たちはどう生きるか』に書いてありますよ」と言われて、読んでみたら本当にそうで。みんながどう生きるかではなくて、自分の人生を考えることが大切じゃないですか。わたしが映画以外のお仕事なんかを続けていたのも“保証のための人生”だったんですが、そもそもなんのための保証なのかと。「少女邂逅」を撮ったときに自分の人生を考えるようになって、一気にいろんなことが変わりました。

WWD:たしかに、日本では他人や社会への同調意識が強いように感じます。

枝:日本では映画のポスターも同じようなものばかりじゃないですか。日本ではわかりやすいことが重要で、わからないことに対する許容がないように見受けられます。映画を見てわからないことがあったら、それってマイナスなイメージだと思われてしまう。本当はそんなことはなくて、わかんないことはそのままでいいんです。「なんかわからなかったけれどよかった」でいいんです。そういう刺激に触れてほしくて、映画館に来てほしいんですよね。

わからないものはわからない、でいい

枝優花・監督が手掛けたindigo la EndのMV「蒼糸」

WWD:わからないものはわからない、でいいわけですね。

枝:先日indigo la Endのミュージックビデオを撮ったんですが、川谷(絵音)さんが「感覚的にかっこよければ何でもいい」と言ってくれたので、現場の感覚で撮ることにしたんです。言葉にできないけど感覚的なものを撮ることで、同じような感覚をいいと思ってくれる人には届くと思いました。昔はもっと刺激的な作品があったんですが、今は規制がどんどん強くなっています。でも、作る側が恐れていては何も発信できない。

WWD:自身の映画のビジネス面についてはどの程度考えていますか。

枝:お金になるかはわからないですが、映画は見てもらわなければ意味がないと思っています。どの層に見てもらって、どの層に刺さるのか。定期的なお給料がもらえる仕事ではないので、自分のポジションを確立しなければいけません。誰かと似たような映画を作っても意味がないわけで、隙間産業じゃないですけど、自分のポジションを見つけない限り生きていけないと思うんです。だから、どの層からお金を生み出せるかは常に探っています。

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