パリ・ファッション・ウイーク会期中を除けば、パリの街中でブランド品に身を包むパリジャンを見かける機会は少ない。モードラバーが集まるエリアやショップはあるが、極めて一部の少数派である。パリはモードの街として名高いが、実際はモードよりもバカンスや趣味にお金をかける傾向が強く、ブランド品よりも古着を愛する人が圧倒的に多いのだ。むしろ、流行に左右されて見た目にやたら構いお金をかけるのは“知的でなくダサい”という価値観があるよう。特にメンズはその傾向が強く、トレンドとして台頭するストリートスタイルは滅多にお目にかからない。その代わり、古着以外に定番でパリジャンから支持されているのは、サーフスタイルである。手持ちの古着との相性も良く、現実的な価格であること、そしてフランス人が重要視する“抜け”を効かせたスタイルがかなうからだろう。そんなパリジャンに支持されるサーフブランド3つを紹介する。
NOON GOONS
ロサンゼルスの風をパリで感じさせる「ヌーン グーンズ」は、2000年代初頭にサーファーの間でカルト的人気を誇ったカジュアルブランド「ウォーリアーズ オブ ラッドネス(WARRIORS OF RADNESS)」にいたカート・ナーモア(Kurt Narmore)が立ち上げた。カリフォルニアのサーフカルチャーに囲まれて育った彼が、80年代のパンクロックとロサンゼルスに根付くサーフスタイル、現地のユースカルチャーをインスピレーション源にデザインを手掛ける。ウオッシュ加工が施された厚めのコットン素材のTシャツや、大胆なカラーブロックのウインドブレーカーなど快適でクールなアイテムは、機会があれば波に乗るサーファーのために作られているが、ディナーやデートにも着ていける清潔感と贅沢な生地へのこだわりが都会的なパリジャンにも支持されているようだ。パリでは百貨店ル・ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)とプランタン(PRINTEMPS)、日本ではドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)、ビームス(BEAMS)で取り扱われている。
HOLIDAY BOILEAU
1946年から77年までアメリカで発行していたラグジュアリートラベル雑誌「ホリデー」が、2014年パリで復刊し、同時にウエア中心のコンセプトストアをオープンさせた。手掛けるのは、エマニュエル・アルト(Emmanuelle Alt)仏「ヴォーグ(VOGUE)」編集長の夫でアートディレクターのフランク・ デュラン(Franck Durand)。メンズとウィメンズを展開するオリジナルブランド「ホリデー ボワロー」は、アメリカのトラッドスタイルとパリジャンのミニマリズム、そこにサーフやマリンのリラックスムードを加えたようなデザインだ。スエットとTシャツのデザインを手掛けるのはビンテージ品に造詣の深いゴーチエ・ボルサレーロ(Gauthier Borsarello)。ストアの地下スペースには、彼が運営するファッションプロ向けのレンタルサービスのショールームとして、希少なビンテージのメンズウエアが並ぶ(一部は一般向けに販売)。オープン当初から話題で、ビンテージマニア、雑誌「ホリデー」のファン、一般客と、幅広い層のパリジャンの心をつかんでいる。近々パリにホテルもオープン予定。
CUISSE DE GRENOUILLE
“for the gentleman surfer”をコンセプトに、ルーカス・ボニション(Lucas Bonnichon)とセブラン・ボニション(Severin Bonnichon)の兄弟が手掛けるブランド「キュイス ドゥ グルヌイユ」。レジェンドと呼ばれるサーファーが一世を風靡し、名作とされるボードが誕生した1960年代をインスピレーション源に、タイムレスなパリジャンのスタイルを掛け合わせ、“都会的なサーフスタイル”をパリで確立させた。2010年発足時はシャツのみだったがコレクションはシーズンごとに大きくなり、現在はウエアの他にサーフボード、サングラス、雑誌なども展開する。ミニマルなデザインながら、美しいメランジ発色のニットや上質な吊り裏毛地を表面に使用したスエットなど、ディテールに贅沢さが感じられる。崩しすぎず堅すぎないバランス感とコストパフォーマンスの良さが魅力だ。フランス国内に旗艦店3店舗、日本ではビームス ライツ(BEAMS LIGHTS)で取り扱われている。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける