山中美智子「アリシアスタン」デザイナー兼EXJ最高経営責任者:1985年東京生まれ。16歳でモデルデビューし、22歳から服飾デザインの勉強を開始。旅をしてビーチに行くことや、海外のビキニを集めることが好きだったことが高じて、13年春夏に自身の水着ブランド「アリシアスタン」をスタートした。14年7~9月にフジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に参加、15年2月公開の同番組の映画版にも出演。私生活では一児の母 PHOTO BY SHUHEI SHINE
水着ブランド「アリシアスタン(ALEXIA STAM)」が絶好調だ。2018年は4~7月に東京(表参道、新宿)、大阪、名古屋、福岡の5カ所でポップアップストアを開き、表参道は10日間で9300人、大阪は14日間で7000人を集めた。デザイナーである山中美智子は、「アリシアスタン」を手掛けるEXJの最高経営責任者も務めている。山中といえば、14年7~9月にフジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に出演していたことを記憶している人も多いはず。あれから4年、「水着ブランドで食べていけるの?」「こんなに面積の小さな水着、日本で誰が着るの?」といった周りの声をものともせず、山中はブランドを着実に成長させていた。
WWD:4年前に比べて、売り上げ規模や客数はどれくらいになった?
山中美智子(以下、山中):テレビに出た直後の方が集客は多いものかと当初は思っていましたが、ポップアップストアに来てくれるお客さまもインスタグラムのフォロワーも、今の方が伸びています。15年5~7月に原宿の商業施設で行ったポップアップストアと比較すると、今年のゴールデンウィークに表参道で10日間行ったポップアップストアの売り上げは約8倍になりました。知ってもらったきっかけはテレビだったと思いますが、知っていることと、ブランドを好きになってもらうことは違います。中身が伴っていないと好きにはなってもらえないと思う。
WWD:好調の要因は何だと思う?
山中:「『アリシアスタン』はインスタグラムでの拡散に強い」とよく言われますし、自分たちとしても力を入れています。画面をパッと見た時に分かりやすくすてきだと思ってもらえるものを作ることが大事です。同時に、写真を投稿するのにベストなタイミングを考えたり、投稿した時にどんな反応があるかを分析したりといったことを細かく行っています。うちはモノを売るというより、コトを売るという意識が強い。「アパレルはもうからない」って今はよく言われますが、「うちってそもそもアパレル業なんだっけ?」という気分です。普通のアパレルメーカーって、商品を買ってもらったらそこで終わりですよね。でもうちは買ってもらうところが始まり。買った後に旅行に行ったり、そこで写真を撮って友達とシェアしたりといったことの方が大事だと思うから、そういう“楽しみ方”をインスタグラムを使って発信しています。昔は“長く使える商品”にはお金を出すというのが普通の考え方でしたが、今はハロウィンとか旅行とか、非日常のものにこそお金を使いたいというようにみんなの気持ちが逆転している。それもうちにとっては追い風かな。水着のハイシーズンである今は、ブランド名のハッシュタグが付いた投稿が土日だと一日で100件はインスタグラムにあがってきます。ポップアップストアでも、いかに楽しんでもらって写真を投稿してもらうかがカギなので、どこを撮ってもかわいく映るように会場を作り込んでいます。
ゴールデンウィークに表参道で開催したポップアップストア
ゴールデンウィークに表参道で開催したポップアップストア
ゴールデンウィークに表参道で開催したポップアップストア
ゴールデンウィークに表参道で開催したポップアップストア
ゴールデンウィークに表参道で開催したポップアップストア
WWD:SNSの運営について気を付けていることは?
山中:インスタグラムは「身近なところが魅力」みたいに言われることも多いですが、やっぱり憧れじゃないといけないと思っています。元々インスタグラムって、海外セレブの生活をのぞき見できるみたいな点で人気が出たものだから、単に身近なだけで非現実感が全くなくなってしまったらなんだか違う。ブランドの公式アカウントには海外のモデルを起用した写真を載せて、「私もこれがやりたい」「こんなビーチに行ってみたい」と、みんなの想像が膨らむように世界観を作り込んでいます。一方で、私の個人アカウントは、「こんな感じにすればすてきな写真が撮れるよ」といった、ちょっとしたお手本みたいな感じになればと思って投稿しています。
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アレクシス・レンを起用したビジュアル
アレクシス・レンを起用したビジュアル
アレクシス・レンを起用したビジュアル
アレクシス・レンを起用したビジュアル
アレクシス・レンを起用したビジュアル
WWD:今年はアメリカ人の有力インフルエンサー、アレクシス・レン(Alexis Ren)をモデルに起用した。
山中:これからは日本だけでなく世界でも売っていきたいと思っています。アレクシスを起用したのはその始まりです。アレクシスは海が好きな子ならみんな知っている憧れボディーの持ち主で、ボーイフレンドといつもすてきなビーチを旅している。ブランドとしてイメージを作りやすいと思ったので起用しました。インスタグラムには国境がないので、彼女を起用したことで海外からの問い合わせやECの売り上げはすごく伸びています。それに対応するために、バイリンガルのスタッフを採用しました。来年は本格的に世界展開したいので、世界各地域のビーチガールを起用したルックを撮影したいと思っています。
WWD:海外からはどんな反応がある?
山中:海外ではセクシーなデザインやシンプルな水着が好まれると思っていましたが、肩にフリルやリボンが付いたデザインが意外と人気です。ガーリーだけどガーリー過ぎないところがいいみたい。もっとセクシーなデザインじゃないと海外では売れないと思っていたから、これはいけるかもって自信がつきました。あと、「写真で見るよりも実物の方がいい」「着心地がいい」と言われることも多いです。海外の水着ブランドを否定するわけではないけれど、実物よりも写真の方がかわいいというケースが海外の水着の場合は少なくない。うちは全部日本製なので、フィット感やクオリティーが支持されているみたいです。
WWD:“筋トレ女子”が増え、ヘルシーなライフスタイルを志す人が全体的に増えていることも追い風になっている。
山中:最初はこんな小さな面積の水着を買ってくれる人は本当にニッチな存在でしたが、今は日本でもお尻を鍛えるのがはやっています。この4年、お尻は隠した方が野暮ったいと言い続けて、ちょっとずつショーツのカットを深くしてきました。とうとうこの流れがキタっていう感じ。ビキニが似合うということはどんな服も似合うということだから、自分に自信が持てて、心身共に健康になることに通じます。日本の女性がきれいで、ポジティブであることはすごくすてきなことだと思う。みんなが自信を持って生きるためのサポートを私がしているなんて、そんな大それたことは全く思わないけれど、私自身もそういう生き方をしたいとは思う。ポップアップショップでお客さまと話すと、「ビキニブランドを始めた」といった声もいただきます。私がブランドを立ち上げた時は「ビキニブランドなんて絶対やっていけない」と言われたけれど、今は水着の文化がかなり盛り上がってきていて、同時に強い女の子が増えている。彼女たちの背中を少しでも押せているのならとても嬉しいです。
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WWD:今までは春夏のみの展開だったが、今秋から初めて秋冬用の水着も企画している。
山中:毎年7月でほぼ売り切っていましたが、年末年始の旅行用の水着が欲しいという声はお客さまからいただいていました。秋冬用を欲しがる人は本当に海が好きで、肌も焼きたいというケースが多い。だから日焼けする時に邪魔にならないよう、生地を折り返したり、ストラップを外したりがしやすいデザインにしています。これは秋冬物に限った話ではないですが、うちは縫製工場に嫌がられるくらいサンプル修正をかけます。完璧だと思っても、一回海で着てみて「やっぱり2ミリずらした方がいい」とこだわって修正することも多い。うちの水着はすごく柔らかくてきめの細かい生地を使っていて、ゴムはそんなに強くせず、縫い目は表からなるべく見えないように作っています。日本の他の水着ブランドの作り方とは大分違うので、工場の方も、最初は「この子、何言っているの?」という感じだったと思う。でも、少しずつやりたいことが共有できてきました。
WWD:今後ブランドをどんな形にしていきたい?
山中:私が表に出なくてもやっていけるブランドにしていかなきゃダメだと思っています。私はどんどん年を取っていくし、私自身を支持してもらうというより、商品とブランドの世界観を好きになってもらいたい。そういうことを目指す時期にきていると思う。スタッフを育てるために、SNSの運営なども少しずつ任せるようにしています。商品については、妥協する気は全くないです。妥協したものを世に出しても意味なんて無いって思っちゃう。みんなが一目見て「欲しい」と感じるような商品を作りたい。努力すれば、ブランドとしての伸び代はまだまだあると思う。たとえば、原宿系の肌が白くてピンク色の服とかが好きそうな子って、今までうちのブランドのイメージにはなかったですが、そういう子たちにうちのビキニを着てもらっても実は似合うんですよ。彼女たちに合わせていこうとは思わないけど、でも着てもらうと似合う。そこは一つの大きな伸び代だと思います。
WWD:これからかなえたい夢は?
山中:いつかプールをデザインしたい!あとはホテルとか食事とか、そういうライフスタイル全般のデザインにも興味があります。私は「コレが好き!」というものが決まっているので、何をやるにしてもブレることはないと思う。ここに行きたい、こういうことがしたい、というアイデアはいつも頭の中にいっぱいあって、「何か案を出して」と言われたら即答する自信があります(笑)
「アリシアスタン」のビジネスモデルについての詳細は、「WWDジャパン」8月6日号 で紹介している。