7月、北イタリアのフランチャコルタ(FRANCIACORTA)というところに3日ばかり行って来た。この時期、「シャンパーニュ(シャンパンの正式名称)のランスに行ってきました」と言えば、「ああ、シャンパーニュのシャトー巡りですね」とすぐ分かってくれるが、フランチャコルタと言ってもまだそこまでの知名度はないが、しかしもうしばらくしたら、フランスのシャンパーニュ、イタリアのフランチャコルタと並び立つ存在になるのではないだろうか。現在、瓶内二次発酵のスパークリングワイン(発泡性ワイン)で、産地名が自動的に瓶内二次発酵を意味するのは、シャンパーニュとフランチャコルタ、そしてカバ(スペイン)の3つだけで、そのクオリティーが保証されている。
その中では、シャンパーニュが知名度、生産量でずば抜けている。さらに、1990年以降、シャンパーニュのトップブランド群を手中に収めたLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON 以下、LVMH)が、傘下のラグジュアリー・ブランドのパーティー・イベントで、このシャンパーニュのトップブランド群を強烈にプロモーションしたことで、圧倒的なマーケットシェアを獲得した。
今回、私はフランチャコルタの6つのワイナリーを見学したが、正直に言って、クオリティーにおいてはシャンパーニュに比較して全く遜色がない。大きな違いは瓶内二次発酵期間が、シャンパーニュの15カ月に比べて、18カ月以上と長いことだ。加糖率も少なめで果実味が勝っているのに辛口というタイプが多い。価格は通常タイプで1本(750ml)3000~5000円ほど。シャンパーニュに対しては、十分にコスト・パフォーマンスを主張できる。
すでに昨年10月、伊藤忠食品は、フランチャコルタを1961年に初めて製造し現在最大手(年間約430万本製造)のグイド・ベルルッキ(Guido Berlucchi)との間で日本での独占販売契約を締結するなど、いよいよフランチャコルタへの注目が集まっている。
今後の課題は高いブランドイメージの確立だ。LVMHが独自に傘下ブランドで行ったようなイメージ戦略が可能かどうかだ。大手ワイナリーのベラヴィスタ(BELLAVISTA) オーナーでフランチャコルタ協会会長のヴィットリオ・モレッティ(Vittorio Moretti)は「LVMHのマーケティングは見事だったが、われわれはフランチャコルタの117のワイナリーすべてが浮上できるようなプロジェクトを推進していく」。
具体的には、ミラノ・ファッション・ウイークを運営するカメラ ナツィオナーレ デラ モーダ イタリアーノ(Camera Nazionale della Moda Italiana=イタリア・ファッション協会)および各メゾンとの協力関係の強化である。そのパーティーやイベントでは、「フランチャコルタを飲もう」ということである。一種の愛国主義である。LVMH傘下のイタリアブランド「フェンディ(FENDI)」「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」「ブルガリ(BVLGARI)」」のイベント・パーティーでフランチャコルタが振る舞われるのはまれでも、「トッズ(TOD'S)」「ヴァレンティノ(VALENTINO)」「グッチ(GUCCI)」「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」などのイタリアを代表するファッション・ブランドではフランチャコルタが提供されることが当たり前になっている。「イタリアを代表するファッション&ラグジュアリー・ブランドのイベントやパーティーではフランチャコルタが宴を盛り上げます」という戦略だ。さらにオペラの殿堂ミラノ・スカラ座でも、場内で提供されるオフィシャル・ワインは「フランチャコルタ」に決定されたという。ファッションとオペラ、この頂上作戦はなかなか理にかなっている。もちろん、そのクオリティーとうまさが備わっていなければ、デザイナーや歌劇場からOKが出るわけではないが、上述したようにフランチャコルタは、まさに折り紙付きなのだ。
今回のワイナリー見学で印象に残った出来事があった。大手ワイナリーのカデルボスコ(CA' DEL BOSCO)社を訪問した際、社内を案内してくれた広報担当の女性の足元をチラリと見ると、見慣れた3本線。私の視線に気づいた女性は「昨年から着用が始まった6月から9月の夏季ユニフォームの一部、『グッチ』のスニーカーです」と説明してくれた。今まさに絶好調の「グッチ」のスニーカーをユニホームに使うとは心憎い。フランチャコルタ協会とイタリアのファッション業界の密接なつながりを実感させた。