ファッション

イラストレーター・たなかみさきの“エモい”作品が圧倒的支持を得る理由

 ここ最近、「エモい」という言葉を聞くことが増えた。「エモい」という言葉はどこかノスタルジックで、感傷的な表現とされるが、説明の難しい、ある種“若者の共通言語”と呼べるだろう。そんな「エモい」という表現がぴったり当てはまる代表例が、若者を中心にSNSで大人気のイラストレーター・たなかみさきの作品だ。彼女の“エモい”作品はなぜ支持を得るのか。そもそも「エモい」とはなんなのか。

WWD:まず「エモい」という言葉をどう定義しますか。

たなかみさき(以下、たなか):私も正確な意味を知らないのですが、どこか「懐かしい」に近い気がします。例えば、ユーミンの歌みたいに、当時を知らなくても、誰が聞いても懐かしいものってありますよね。駄菓子屋とか、まさに“エモい”じゃないですか。

WWD:自分の絵を「エモい」と言われることについてはいかがですか。

たなか:絵を見て自分の人生を振り返ってもらえるような作品を心がけていて、だからエモいというか、懐かしいと思ってくれることはすごくうれしいですね。そのためにもなるべく身近なものしか書かないようにしていて。身近なものには思い入れがあったりするので、懐かしく感じるじゃないですか。

WWD:1年前にお話を聞いた時に「絵の題材を探すためにハプニングを期待している」と話していましたが、絵を描くにあたってここ最近変化はありましたか。

たなか:最近は私生活が安定してきたので、ハプニングを起こさなくても絵を描けるようになりました(笑)。“セクシャル”が題材であることには変わらないのですが、絵のタッチを変えてみたり、いろいろとチャレンジする余裕が出てきました。あとは異業種のお仕事も増えてきて、化学反応を楽しめるようになりました。ちょうど「ビームス クチュール(BEAMS COUTURE)」が「ジップロック(ZIPLOC)」とコラボしたアイテムのルック画像を描かせていただいたのですが、こうした他業種のエッセンスが入ることで、どんどん変化できたらいいなと。

WWD:それでも、世界観はブレていないですよね。

たなか:何を書いても私の絵だとわかってくれるような個性を出すために、テーマがぶれないことは意識しています。例えば、布のシワを書いただけでも私の絵だと表現できるとか、人間を書いていなくても“エロみ”を表現できたらいいなって。

WWD:定期的に個展やイベントを開催していますが、ファンとの交流は大切にしていますか。

たなか:リアルな場を通じて、自分がどういう人間なのかを知ってほしいですね。(インスタグラムの)フォロワーが30万いてもどれだけの人が本当に見てくれているのか、それを確かめるためにも個展はやっていきたいです。

誰でも感情移入しやすい絵だからこそ、「懐かしさ」を生み出す

WWD:ファンから影響を受けることはありますか。

たなか:それは、頑張ってないようにしています。ファンの方の意見を反映すると、「〇〇を書いてほしい」みたいにクライアント仕事のようになってしまうので。ただ、SNSを見てても「この男の人は〇〇に似てる」とか、好きな人に投影してくれることが多いようで。作品がコンセプチュアルじゃない分、自由な視点で見てもらえている気はします。歌を聴いて感情移入する感覚に近いかもしれません。

WWD:誰でも感情移入できることが「懐かしい」につながっているのでしょうか。

たなか:そうかもしれないですね。視覚だけでいろいろと想像させるには引き算が必要で、だからシンプルでいたいなと。私はよくキャミソールの女の子を描くんですが、背景もあまり描かないですし、そうすると季節感もわからないし、誰かの部屋にいるのか、外にいるのかもわからないみたいな。見た人が考える余地を残すようにしています。これからは人じゃなくて、モノだけでもそんな感覚を出せるようになりたいんですよね。線香花火の手元だけ、とか。

WWD:今の時代SNSがあるので、絵を見て感じたエモーションをすぐ拡散できるようになったことも人気に拍車をかけたように思います。

たなか:エモーション、感情ってみずみずしいじゃないですか。今はSNSがあって、瞬時に発信しやすくなったので、エモーショナルなことを即座に伝えられる時代になったと思います。ただ、すぐに伝わる分すぐ終わっちゃうような気もして、SNSとの距離感は上手にとっていかないといけないなと思います。

WWD:やっぱり、SNS時代だからこそ、消費サイクルが早まるという懸念はあるのですね。

たなか:フォロワー数でその人の価値を決めたりする時代だし、SNSは少し不安要素ですよね。もし今アカウントを消してしまったら仕事が来なくなるんじゃないかとか。例えば、ウェブの媒体で発表した作品は、原画こそ手元にありますけど、この原画がなくなったら何も残らないんじゃないかとか考えちゃいます。原画をもっと売ったり、手渡したりする必要があるのかなと思ったり。先のことはわからないですが、やっぱりまだ実体のあるものの方が確信が持てるので、今は好きなのかもしれないです。

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