どんな分野にもマニアと呼ばれる人がいる。このほど発売された「IKEAマニアック」(森井ユカ・著、河出書房新社)は、スウェーデン生まれのインテリア専門店「イケア」の魅力に取り憑かれた著者の25年に及ぶ活動記録である。本業は立体造形作家の森井だが、最近は「マツコの知らない世界」「ヒルナンデス!」などテレビ番組でイケアを解説する姿でも知られている。この本では女性誌のインテリア特集や北欧特集とは別次元のマニアの熱量で、商品や売り場だけでなくイケアの舞台裏まで読者を引き込む。
マニアたるゆえんは常人の理解を超えた行動にある。イケアが日本に出店する以前は、わざわざ台湾や香港の店舗に足を延ばしていた。海外旅行や出張の際も必ず当地のイケアにおもむき、商品や売り場の微妙な違いをチェックする。各国でイケア名物のミートボールを食べ比べる。日本の各地に店舗がオープンする際は、何が何でも初日に駆けつける。新居の浴室をイケアで売られているゴミ箱のデザインをベースに設計する。好きが高じて2006年のイケア日本上陸の際には「IKEAファンブック」(河出書房新社)を出版した。聖地と呼ぶスウェーデン・エルムフントの1号店への巡礼も果たした。「誰に頼まれずとも行く。そこにイケアがあるから」。これぞマニアの真骨頂だろう。
豊富な写真や抱腹絶倒の海外レポートも楽しいが、本書は実践的な指南書でもある。巨大な店舗、一方通行の動線、膨大な商品量という独自の文化を持つ「イケアの歩き方」を事細かく解説する。あまり知られていないような情報もたくさんある。ECでは絶対に味わえない醍醐味を教えてくれる。
森井は店舗を訪れるときには青または黄色のものを身につけるそうだ。いうまでもなくイケアのコーポレートカラーであり、スウェーデンの国旗の色である。「気分が上がるだけでなく、それがイケアに対する最低限の敬意です」。筋金入りのマニアの愛の深さを感じさせる1冊だ。