左から「グッチ」「サンローラン」「ボッテガ・ヴェネタ」
フランソワ・アンリ・ピノー=ケリング会長兼最高経営責任者は生産性向上を軸とした成長戦略を決算会見で語った。
まず、ピノー会長は「グッチ(GUCCI)」にはまだ成長の余地が多くあると話す。売上高は38億9800万ユーロ(約4833億5200万円)と、マルコ・ビッザーリ=グッチ最高経営責任者とアレッサンドロ・ミケーレ=クリエイティブ・ディレクターによる「グッチ」転換策が実を結び始めている。グループのおよそ3分の1の売上を占める同ブランドの既存店売上高は第4四半期には前年同期比104.8%で、同99.6%を記録した第3四半期よりも強い伸びを示した。
単位は100万ユーロ。棒グラフは売上高、折れ線グラフは営業利益。2015年度は2ケタ増収を達成したものの営業利益では微減となった。
バッグの“ディオニュソス”やローファーの“プリンスタウン”といったアイテムはヒット商品となり、ミケーレによる新コンセプトに転換した店舗は来店客数、売り上げともに好調だ。15年には34店舗が新コンセプトに転換し、60店舗のリニューアルを今年予定する。「グッチ」の米国ウェブサイトも10月にリニューアルし、ページビュー数が倍になり、「買い物カゴに入れる」を選択したユーザーは20%増となった。なお、リニューアルしたウェブサイトはヨーロッパとアジアパシフィック地区で今年公開される。
ジャン・フランソワ・パリュ=マネジングディレクターはミケーレによるコレクションは第4四半期の売り上げのうち30%以上を占めると話し、16年度の第1四半期では50%、年度末にはほぼ100%を占めると公算する。「坪効率では『グッチ』は数年以内にトップブランドに返り咲いてしかるべきだ。お分かりかと思うが『グッチ』のポテンシャルはたいへん大きい」と同氏は意気込む。しかし、「グッチ」の15年度の営業利益率は26.5%と前年から3.7ポイント下げている。これはリストラと店舗閉鎖に加え、前任のフリーダ・ジャンニーニによるコレクションの値引き販売によるものである。
「サンローラン」に関しては、売上高が9億7300万ユーロ(約1206億5200万円)と、16年度には10億ユーロの大台に乗ることがほぼ確実視される。142店舗でこの数字を達成したが、「ブランドのポテンシャルから言えばまだまだだ」とピノー会長の鼻息は荒い。ただ、3月7日にパリで行う秋冬コレクションを最後にクリエイティブ・ディレクターのエディ・スリマンが退任するとの臆測についてはコメントを避けた。ピノー会長はエディの芸術的なビジョンに対し敬意を示しつつも、ブランドの命運を一個人の双肩にかけることは間違いだと言う。
「ボッテガ・ヴェネタ」の15年度売上高は既存店ベースで前年比103.2%となる12億8500万ユーロ(約1593億4000万円)を確保したが、アジア市場におけるオーバーストア状態に悩まされ、第4四半期には既存店売上高が前年同期比96.9%と2009年第1四半期ぶりに減収に転じた。ピノー会長は短中期的に20億ユーロブランドに成長させる戦略を軌道に乗せるためにカルロ・アルベルト・ベレッタ最高経営責任者とトーマス・マイヤー=クリエイティブ・ディレクターと話し合ったと語り、「グラスの中身が半分しかないと見る人もいれば、半分もあると見る人もいるだろうが、私は後者だ。『ボッテガ・ヴェネタ』は、とりわけ成熟市場で売り上げ構成比を再構築すれば大きなポテンシャルを秘めている」と期待をかける。
READ MORE 1 / 1 「今見て、今着て、今売る」という考えは夢や欲望を否定するもの
新たな成長局面に突入すると語るフランソワ・アンリ・ピノー=ケリング会長兼最高経営者
ケリングの15年度の為替変動の影響を除く売上高成長率は前年比104.6%と直近3年間で最も力強い成長を達成し、グループ全体では為替変動の影響を考慮すれば同115.4%の115億8400万ユーロ(約1兆4364億1600万円)となった。しかし、「グッチ」「ボッテガ・ヴェネタ」の営業利益は前年割れとなっている。なお、決算会見でピノー会長は香港と中国本土における「グッチ」と「ボッテガ・ヴェネタ」の不振店舗については撤退する考えを明かしている。
ピノー会長は、「ボッテガ・ヴェネタ」「サンローラン」「バレンシアガ」について、ブランドがポテンシャルを発揮するには継続した投資が必要だとした上で、ブランドのキャッシュフローを改善しない限り設備投資は認めないと条件をつけた。
「われわれは今日、世界中の主要な都市と場所に居を構えている。われわれの優先事項はそこからさらなる利益を引き出すことだ。既存店売り上げを向上させることでこれを達成し、営業利益率の改善につなげる」と言うピノー会長に対し、パリュ=マネジングディレクターは「為替変動による影響を加味しても、15年度の利益水準には満足していない」とさらに踏み込んだ。
企業買収については留保し、将来の投資はキャッシュフローと既存店売り上げの改善にかかっていると語ったピノー会長は「短期的に見れば2010年代の始めよりもマーケットの成長速度は遅い」とし、ケリングが店舗拡大から数年を経て新たな成長局面に入ると言及した。
また、ピノー会長はファッションショーを消費者向けのものする議論について「ラグジュアリー産業では間違いだと思う。『今見て、今着て、今売る』という考えは夢や欲望を否定するものになりはしないか。ランウエイは創造の過程において欠かせない部分である。ラグジュアリー・ブランドにおいて創造の過程を二つに切り分けることなどできない」と喝破した。
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