「ディアンドデパートメント(D&DEPARTMENT)」が8月、初となるクラウドファンド「レディーフォー(READY FOR)」を活用した資金調達を開始した。これまでも店舗を軸にイベントやメディア作りなどさまざまな仕掛けを実現してきた同社だが、今回の資金調達にはどういった思惑があるのか。「ディアンドデパートメント」を立ち上げたナガオカケンメイと、親交の深いブックカフェ「6次元」を運営するナカムラクニオの2人に話を聞いた。
WWD:クラウドファンドを使ったプロジェクトを始めたということですが、何をするのでしょうか。
ナガオカケンメイD&DEPARTMENT PROJECTディレクター(以下、ナガオカ):伝統工芸や祭りというものを考えた時に、本来はその土地ならではのやり方で進化していくものにも関わらず、他県が真似をしたりして均一化、雑貨化しているという課題を感じていました。こうした課題に対して、都道府県ごとのガイドブック「d design travel」を作りましたが、これは2カ月その土地に住み込んで作り上げるんですね。ただ、冊子ができてしまうとまた次の土地へと移ってしまう。せっかくその土地らしさを発見したのであれば、そのあとも発信をし続けなければいけないと思っていました。また一方で、僕たちが選ぶお店というのは単に流行りに乗って商売をしている人というよりか、その土地らしさを発信しているお店が多いんです。そうすると、なかなかビジネス的な体力がなくて、続かないんです。彼らを応援する意味でも、土地ごとの情報を紹介し続けるメディアを作りたいと考えました。
WWD:具体的には何を作るのですか。
ナガオカ:年4回、紙媒体を作ります。そして、これまでガイドブックに掲載してきた日本全国のお店がその季節に何をしているのか、全ての店舗の現状を掲載していこうと。その媒体をファンの方が買ってくれることで、お店の応援になると考えました。そんな媒体を作るために、クラウドファンドで応援してくれる方を募ろうというプロジェクトです。
ナカムラクニオ「6次元」店主(以下、ナカムラ):僕は「d design travel」の東京号を作った時に掲載いただきまして、それからのご縁なのですが、その後別の県のお店など、横のつながりも意外とできたりして。こうやって掲載いただいて、応援してもらえるのはやはりうれしいですよね。
WWD:最近はクラウドファンドを活用して“応援する・される”ことでビジネスが成り立つお店が増えました。
ナガオカ:われわれは“売れるもの”ではなくて“売りたいもの”を売っています。実際扱う商品の9割くらいは他のお店でも安く買える、珍しいものではないんです。そうすると、お店として成立しない。じゃあなんで成立しているかというと、ファンの方が応援してくれるからなんです。僕たちは何十万というお客さんをターゲットにしているわけではないので、東京のお店だったら、極論コアなお客さんは50人くらいかもしれません。それを可視化するために、クラウドファンドを使って応援してもらえるような仕組みを作りたかった。
ナカムラ:実はこの応援するシステムというのは意外とあって、例えば会員制で高額な本を作って、イベントを開催するようなことは昔からありました。だから、今回の話を聞いて、ナガオカさんが原点に帰ってきているような気がしましたよ。
ナガオカ:たしかに、当時作っていた冊子を読み直していています(笑)。
ナカムラ:彼も10年くらい前には店頭でレジ打ってましたからね。そういう温度感って大切じゃないですか。あらためて詩とか書いたらいいんじゃないですか。そういうものがある方が、今の時代グッとくるんじゃないですか(笑)。そういう温度感、出世した人はみんな捨てていっちゃうんですよね。
ナガオカ:やりたいことができなくなっていくんですよ。われわれも、最初にお店を出したいといってくれたオーナーはだんだん会議に来てくれなくなります。運営こそスタッフに任せていますが、規模が拡大するにつれて、熱量の部分が抜け落ちちゃうのかもしれないですね。クラウドファンドでは、自分がアツい思いを持っていた頃の感覚に戻らないと成功しないのではないかと思います。
ナカムラ:昔、東京の旗艦店の床のタイルを全部黒くしたことがありましたよね。あのタイルはファンからの有志で、裏には全部ファンの方の名前が書いてあって。昔はサイトでタイルの位置を選ぶと名前を検索できたんですよね。あれってプチ・クラウドファンドだったなって。
店舗で儲けない時代が来る?
WWD:クラウドファンドにおいて、お店とファンというコミュニティーができることが特徴だと感じます。
ナカムラ:個人にファンがつく時代ですよね。コミックマーケットなんてすごいですよ。1冊1万円の冊子を買うために、何千人ものファンが並ぶ。しかも、お土産まで持って来て。すごいシステムだなと。リターンが少なくてもお金を払いたい人っているんです。ある時、お茶の本を出した際にトークショーではなくて、お茶会をやったんですね。作家がお茶を淹れてくれるんです。本自体は買ってくれないかなと思ってたら、みんな買ってくれて。意外とみんなが求めているのは特殊な体験なのかなと感じました。
ナガオカ:しかも、その方がメジャーじゃないからいいんでしょうね。自分が応援することで自分の影響力が見える。
ナカムラ:インディーズバンドのように、メジャーになると応援しなくなる人もいますからね(笑)。
WWD:有料のメルマガだけで生きていくブロガーもいますよね。
ナカムラ:これは未来のビジネスの1つで、もしかするとびっくりするほど高いメルマガもありかもしれない。知り合いでバーをやっている人が、バーでの売り上げより「ノート(note)」で書いた有料コンテンツの収入の方が多いと言っていて。バーでお客さんの話を聞いて、それをもとに作ったコンテンツが売れるというのは新しいお店の使い方ですよね。
WWD:そうなると、もはやお店は“売らなくてもいい場所”ですね。
ナガオカ:リアルなお店という、もはや時代に合っていないスタイルをとるという“本気度”に対して、濃いお客さん、そして情報が集まるんでしょうね。最近「タワーレコード」の取材をしたんですが、すごく調子がいいみたいで。来る人がCDを買っているのかといえば、そうではなくて、ファンイベントのおまけとしてCDを買っているらしいんです。バーの話も同じような仕組みですよね。
ナカムラ:僕もカフェを運営していますが、実際月に何日かイベントをやればなんとかなるわけで。最近は1万〜2万円の高いイベントが人気なんですよ。いいものに対しては、ファンの方もきちんとお金を払ってくれるんです。
ナガオカ:ナカムラさんの場合は伝統的なものに対するアツい思いがあって、知識も経験もあって。その人がやっている本屋さんがあるから、その人の“知”に対してお金を払うようなイメージなんですか?
ナカムラ:もはや、お布施をもらっているような感覚ですよね。さっきのバーの店主の方が言っていたんですが、最近はビシッとしたお店よりラフなお店の方が人気らしくって。
WWD:ゆるいお店だと、客と店員の距離が近いことが魅力なのでしょうか。
ナカムラ:そうですね。とくに、小さいお店にとってはこの“ユルさ”が武器になるかもしれない。うちのお店でも来てくれた人に余ってる展示会のチケットをあげたりして、喜ばれることがあるんですけど(笑)。人によってどんなプラスアルファで喜ぶか、考えるようにしています。
ナガオカ:でも、だからこそ、人との距離感が難しい時代だなと思って。仲のいい人通しで何かをやるのなら、その中で全力を出せばいいんですが、その後ろに誰かがいたりとか、どんどんしんどくなるなって。その反面、クラウドファンドでは相手もお金を出すというリスクを抱えて歩み寄って来てくれるので、こちらも歩み寄りやすいんですが。スマホのせいで人との距離感の取り方が難しい時代になっているなと感じます。知らなくてもいい情報を「知らなければいけない」という雰囲気もあったり、のんびりできない時代ですよね。
ナカムラ:僕はまだまだ同時進行でやりたい時期なので、自分でむしろいろんな情報を多めにインプットしちゃっていますね……(笑)。ナガオカさん、もし仕事をしなくてもいいなら、何をしていたいですか?
ナガオカ:僕はずっと寝てますよ(笑)。そうでもなければ、そうですね、詩でも書いてましょうか(笑)。