テクノロジーの進化にともない、ファンに商品をおすすすめするライブコマースや支援を募るクラウドファンドなど、消費者のエモーションを喚起することで消費が生まれるという流れが顕著になった。こうしたIT業界におけるエモーションの必要性について、目の前のモノを即現金化する質屋アプリ「CASH」や、“お金がなくても旅行に行きたい”を実現する後払い式の旅行代理店アプリ「トラベルナウ」を生み出した光本勇介BANK社長に話を聞いた。
WWD:ITビジネスにおいて、とくに「エモーショナルがビジネスになる」という潮流が多いように感じます。
光本勇介BANK社長(以下、光本):結論からいえば、なると思います。ただ、僕たちは表現次第で市場が作れると思っていて、表現方法を変えたことで新しい需要を喚起しているということです。例えば、「CASH」は泥臭い言い方をすればただの買い取りアプリなんです。でも自分たちでそう言ったことはなくて、僕らは「目の前にあるものが瞬間的にお金に変わるアプリ」と説明しています。その方がワクワクするし、魔法みたいですよね。結果として新しいカテゴリーだと認知され、新しい市場が生まれたんだと思います。
WWD:ビジネスにおいては“表現”がとても重要だと。
光本:(かつて光本社長が創業したEC構築サービスの)「STORES.jp」も、僕たちは「世界にひとつだけのオンラインストア」と呼んでいました。仕組みは他のECサービスと変わらなくても、見せ方一つで感情を掻き立てることができるんです。だから「エモーションはビジネスになる」という前提のもとで、表現方法にこだわっています。
WWD:表現一つで市場ができるというのは、IT市場全般そうですか。
光本:例えば、「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」の“ツケ払い”も後払いという既存手段の表現方法を変えたサービスです。それでも“ツケ払い”はスタートトゥデイの成長の一つの要因となるくらい成功しました。これまでの画期的なサービスというのは基本的に既存サービスの掛け合わせでできていて、ライブコマースにしても生中継とECを組み合わせているわけです。レシピ市場もそうで、最近はレシピ動画メディアが流行っていますが、動画を通じて感情を掻き立てて、ワクワクを提供した結果、利用につながって、ビジネスになっているんです。
WWD:では、どのようにして、新しい市場を生み出すのですか。
光本:「トラベルナウ」では、お金がなくても旅行に行きたいという人々に啓蒙することが必要で、そのためには「お金がないと旅行には行けない」という固定観念をぶっ壊すことが必要でした。これにはすごく労力が必要で、だからこそ表現によって結果的に新しい考え方に気付かせてあげたり、ワクワクさせてあげることができるのではないでしょうか。「いかに人々のエモーションを掻き立てられる表現をするか」ということですね。
判断基準がエモーションになっている
WWD:情報過多という時代背景は何か関係があると思いますか。
光本:現代は自分の意思を持っている人が少ないような気がします。自分から発信できるツールが増えていますが、自己主張がはっきりしているように見えて、実はそれはごく一部に限られていて、受信側にいるユーザーの方が圧倒的マスなんです。だから、多くはガイドしてあげないと動けない。選択肢がありすぎて、何を選んでいいかわからない。結果として、ワクワクするものを選ぶ。判断基準がエモーションになっているかもしれないですね。
WWD:なるほど。エモーションが消費者にとってモノを選ぶツールになっていると。
光本:エモーションの反対はロジカルですよね。ロジカルというのは頭を使うから面倒臭いんです。ロジカルに考えることはやりたくないし、だから、もしかすると、感情で人を動かすことが一番簡単なのかもしれないですね。数あるスマートフォンの中でなぜiPhoneを選ぶのか。「超クール」だからですよね。iPhoneの広告も全くロジカルではなくて、でも、結果的にビジネスにつながっているわけです。
WWD:アパレル市場においても、“エモーションがビジネス”に直結するということは可能でしょうか。
光本:アパレルも結局、布を使って洋服を作るという行為自体はどこも変わらないわけじゃないですか。だからこそ、アパレルは洋服ではなく“ブランド”を作るべきなんです。重要なのは、いかにエモーションを刺激できるか。最近は「グッチ(GUCCI)」が好調と聞きますが、これも洋服が進化しているのではなくて、人々を刺激するデザインをして、それをうまく発信しているからですよね。
WWD:やはり、表現方法がすごく重要ということですね。
光本:エモーションとビジネスの関係は昔からあって、今は時代の境目だからこそあらためて注目されているのだと思いますが、結局うまくいっているブランドは、表現が上手なんです。広告費用の差ではなくて、うまくファンのエモーションを刺激する表現ができているのか。表現一つで市場は作ることができるんです。