ファッション

ヴァージルや村上隆とも親交 福岡の“チェリーさん”に聞く対Z世代経営論

 インスタグラムをはじめとするSNSは今や既存のメディアに伍するポジションを確立し、多くのラグジュアリーブランドのデザイナーもそれらを使ってビビッドな情報を発信している。そのSNS界隈で最近気になる人物が“チェリーさん”こと、石田武司チェリー ブラウン社長だ。福岡のチェリー(CHERRY)や大分のクロマニヨン(CROMAGNON)を経営し、インスタグラム(@takishz05)ではヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)初の「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のショーのフィナーレで、カニエ・ウエスト(Kanye West)と涙の抱擁をする1枚を村上隆越しで撮った写真などをアップしている。ジェネレーションZに刺さるバイイング方法、そして世界中からファンが訪れるショップの作り方を聞いた。

WWD:SNS時代をどうとらえている?

石田武司チェリー ブラウン社長(以下、石田):SNSは世の中を大きく変えた。今や国境も性別も年齢もない。村上(隆)さんの言葉を借りるなら“スーパーフラット”になった。ただし日本には上下関係を重んじる文化があり、世界の潮流に対応できていない。僕はもともと分け隔てのない人間だったし、20代の半分をアメリカで過ごしたことで、よりフラットになった。要は、“スーパーフラット”な状況を楽しめるかどうかだ。

WWD:“スーパーフラット”なチェリーで売れているブランドは?

石田:(チェリー開店前にクロマニヨンで)ファーストシーズンから取り扱っている「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH以下、オフ-ホワイト)」が頭3つ分抜けた印象だ。続いてヴァージルもリスペクトする「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」。国内ブランドだと「シーイー(C.E)」はインバウンド需要も高い。アイテム別では、ブランドを問わず手に取りやすいTシャツやスニーカーが売れている。来店者は福岡県内が3~4割で、その他は県外や海外からのゲストで構成される。

ネットの早さで体を動かす必要がある

WWD:石田社長はヴァージルと公私ともに交流がある。彼の印象は?

石田:クレバーだし仕事量が半端じゃない。カニエもそうだが、ヴァージルもオタクと言っていいほどの服好きで、だから話題が尽きない。

WWD:ヴァージルも“スーパーフラット”である?

石田:そうだ。タバコを買いに行く感覚で、アメリカからヨーロッパまで移動する。今やネットで何でも手に入るし、見聞きした気になれる。しかしネットの早さで体を動かし実体験を積むことが求められれている。だから僕も、もっと動かなければと感じている。ネットはあくまでツールであり、そこで完結してはいけない。

WWD:実践と行動力こそ肝要?

石田:米国の自動車メーカー、テスラ(TESLA)のイーロン・マスク(Elon Musk)最高経営責任者が「ロケットで世界中を30分で結ぶ」と公言しているが、まさに“リアルどこでもドア”。この人は分かっていると思った。とはいえ僕は元来、流れに身を任せるタイプで(笑)。その分、潮目を読むことには自信がある。例えば、かつてヴァージルが手掛けた「パイレックス ビジョン(PYREX VISION)」を見た時には、ファッションの潮目が変わるなと直感したし、それがチェリー立ち上げの一因ともなった。

今、売れる商品は「点」で買い付ける

WWD:売れるアイテムを見極めるポイントは?

石田:「BALENCIAGA(バレンシアガ)」なら“トリプル S”といったふうに、現在の売れ方は「点」だ。だからバイイングも点をつかむことが求められる。商品を仕入れてから半年かけて徐々に売っていくスタイルはきわめて前時代的だ。またブランドからよく、“世界観を見せてほしい”などと言われるが、それをショップに求めるのは筋違いだ。今はSNSもあるし、映像を作ってネット発信することもできる。そんなことを言っているブランドは正直、終わっていると思う。

WWD:デザイナーも小売りも客も、“スーパーフラット”になった。

石田:若いユーザーにとって、直営店で買うこととネットでセカンドハンドを買うことに違いはない。むしろ彼らの興味は、安くうまく買うこと。その分、ショップは試されていると思う。

WWD:彼らの心を動かすには?

石田:行動して人と出会い、刺激を受けて発見する。そして僕の心を動かしたものをバイイングし届ける。ネットの世界にはフェイクも多く、それを見分けるためにも人と会って話す必要がある。

WWD:そういった作り手に敬意を表して、チェリーではオリジナルアイテムは販売していない。

石田:われわれは商品を売るプロだが作るプロではない。だからオリジナルはやっていない。しかし、“スーベニア”という形にはしている。Tシャツやキャップ、バッジなど、お土産感覚で買えるアイテムを若年層向けに作っている。あくまでお土産なので1万円は超えることはない。

WWD:チェリーのECシェア率は?

石田:3割程度。つまり皆、使い分けができているということ。今、ペットボトルの水を街中でケース買いして持ち帰る人がいないのと同じ。ショップはライブであり、実体験の場。それこそが存在意義だと思う。

来店者の6~7割が25歳以下の若年層

WWD:チェリーでは若年層を意識している?

石田:来店者のうち、25歳以下が6~7割を占める。チェリーをオープンしたころ、30~40代の富裕層と20代以下の若年層は全く別の世界にいた。ファッションには若年層のあこがれがなければ未来はない。世代別に固まっていては活性化もしない。その点、チェリーには高校生、大学生から50代まで幅広い層が来店する。10~20代が「オフ-ホワイト」の4万円のTシャツを買うのはハードルが高い。そのために“スーベニア”を製作している。

WWD:“スーパーフラット”の提唱者である村上隆との出会いは?

石田:5~6年前からインスタグラムで相互フォローはしており、昨年10月ごろからDMの交換をするようになった。それが今年の元日の夜、突然電話が鳴った。「パリに『オフ-ホワイト』のショーを見に行くのだが、スタイリストをお願いできないか」と。当然、本業ではないことを説明したが「それでもいい」と言われ、僕自身かなり忙しかったが村上さんの依頼だから引き受けた。スタイリングが「ヴォーグ(VOGUE)」で評価され、その後も大きなイベントの際には同行するようになった。

WWD:村上さんのスタイリングで気を付けていることは?

石田:一番の難題はサイズ探し(笑)。それに「おなかが苦しいのは嫌」と言うので、修正の必要がある。ただし村上さんは本当に雰囲気があるので、何を着ても絵になる。

WWD:スタイリスト経験で得たものは?

石田:村上さんは、僕以上に行動する人。刺激をもらい、チャンネルも増えた。本業に還元しつつ、ますます行動したい。

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