毎年5月下旬、神奈川・横浜赤レンガ倉庫で開催される音楽フェス「グリーンルーム フェスティバル(GREENROOM FESTIVAL以下、グリーンルーム)」は、“セーブ ザ ビーチ、セーブ ザ オーシャン(Save The Beach, Save The Ocean)”をコンセプトに、サーフカルチャーをルーツに持つ音楽とアートをミックスした野外音楽フェスだ。国内外のアップカミングなアーティストのラインアップや徹底した空間作りはもちろん、都心から小一時間というアクセスのよさとも相まって、2005年の初開催以来年々来場者数を伸ばし、今年は11万人を動員。今年の「フジロックフェスティバル(FUJI ROCK FESTIVAL)」の動員数が12万5000人、「サマーソニック(SUMMER SONIC)」の動員数が8万人であることを考えると、今や日本を代表する音楽フェスの1つと言っても決して大げさではないだろう。
そんな「グリーンルーム」の発起人として知られる釜萢直起(かまやちなおき)GREENROOM代表取締役に、開催経緯や秋に初開催される「ローカルグリーンフェスティバル(LOCAL GREEN FESTIVAL以下、ローカル)」など、フェスにかける熱い思いについて話を聞いた。
WWD:「グリーンルーム」の開催経緯は?
釜萢:2004年にカリフォルニアで行われた音楽フェス「ムーンシャインフェスティバル(MOONSHINE FESTIVAL)」を観たことがきっかけです。それまで日本の音楽フェスに行ったことはあったんですが、どれもコンサートに近い形式だったんです。でも「ムーンシャインフェスティバル」はサーフカルチャーやスケートカルチャーをバックボーンにしながら、ライブだけでなくアート展示や映画上映もあったりと、いわゆる“カルチャーフェス”の先駆け的存在でした。それに刺激を受け、「日本でも同じようなフェスを開催したい」と2005年に「グリーンルーム」を初開催しました。
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初開催ということでなにをするにも五里霧中でしたが、その時はパッションだけでどうにかして、仲間に助けられながら開催を迎えたって感じでしたね(笑)。チケットは600枚を用意し、関係者を大勢呼んだので来場者数は約2000人。場所は、現在の開催地である横浜赤レンガ倉庫の前にある大桟橋ホール(神奈川・横浜)でした。
WWD:今では大型の音楽フェスだけでも50以上あるが、当時は今ほどなかった印象です。
釜萢:そうですね、いわゆるフェスの第1世代(「フジロック」「サマソニ」「ライジング・サン・ロックフェスティバル」「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」など)に影響を受けた第2世代(「センスオブワンダー」や「タイコクラブ」など)の1つに数えられるかと思います。
WWD:なぜ横浜を開催地に?
釜萢:そもそも純粋に横浜という街が好きなんです。地元が横浜から近い町田ということもあって、地元で開催しているような感覚ですね。それに東京と湘南のちょうど真ん中に位置し、海と街を結ぶ場所でもある横浜は、僕が思う“Beach to City”の距離感とピッタリだったんです。
大桟橋ホールを会場に選んだ理由は、当時開催場所を探している時に、海に浮かぶ巨大なサーフボードのように見えたんです。そこから見えるロケーションにもやられて、大桟橋ホールを会場に決めました。それから5年間は大桟橋ホールで開催し、10年に赤レンガに場所を移しました。開催地を変更したのは、来場者数が1万人を超えるようになったことや、そもそも大桟橋ホールがライブハウスじゃなかったことなど、いろいろな要因とタイミングが重なったからです。
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WWD:直接的な収益につながらないアートや映画などの無料エリアが他フェスよりも充実していますが、その理由は?
釜萢:無料エリアは、これまで知らなかったカルチャーを知るきっかけになったらいいと、こちらの持ち出しとして設けています。僕が若い頃はレジェンドスケーターやペインターに直接会ったり、作品を見たりする場がなかったんです。中学の時にそういった人たちに会うことがあれば人生がもう少し変わっていたのかなと今でも思うからこそ、そういう場を「グリーンルーム」で設けています。
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また、「グリーンルーム」のバックボーンであるサーフカルチャーでは、“オープンであること”が大事だと思っています。どこの国でもビーチは開かれたオープンな場所で、同じように「グリーンルーム」も壁を立てて仕切るような場所にしたくなかったんです。ライブが漏れて聞こえるのは全然アリだと思っていて、直接目では見えないけどお酒を片手に音を楽しめることも大切かなと。無料だから来てくれる方もいる。だからこそ無料エリアは手を抜かないように、“世界で一番かっこいいサーフマーケット”を目指しています。
ただ、主催者としては当然有料エリアに入ってほしいという思いはあるので、「今年は無料だったけど、来年は有料で楽しみたいな」と次につながってくれることを望んでいます。そこがカルチャーフェスの難しいところですね(笑)。
WWD:今後の戦略や指針は?
釜萢:フェスとして規模を大きくすることは大事だと思っています。そうなるとアートや映画のエリアは無料なので、ビジネス的なことを考えるとどうしてもチケットを売る必要があって、音楽に対する比重が大きくなります。ただ、音楽で満足していただけない限り、無料エリアのカルチャーにも満足していただけないと考えているので、より良いアーティストをブッキングして最高のライブを届けたいですね。
またフェスを開催するようになってから、会社としての答えに行き着きました。もともと1998年に制作プロダクションとしてスタートし、メーンの事業はサーフブランドのクリエイティブでした。それからしばらくしてフェス事業を始めて、気付くことがいろいろとあったんです。というのもフェスというのは、年1回の開催で関係者との間が刹那的なんですよね。せっかく知り合えたミュージシャンやアーティスト、フィルマーたちと、年間を通してどう関係を保ちながら取り組んでいくかを考えたときに、フェス事業では収まらなくなったんです。そこで、フェスに呼んだアーティストの作品をそれ以降うちのギャラリーで展示したり、フィルマーの映画を配給したりと、サポートすることで1年を通してつながるようになれましたね。
WWD:より良いアーティストを具体的に挙げるとすれば?
釜萢:レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)だったり、リストにはたくさん上がっています(笑)。楽しみにしていてください。
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WWD:例年「WWDジャパン」では来場者をスナップしていますが、他フェスに比べてモデルやインフルエンサーをはじめ、ファッション感度の高い人たちが多いと感じます。
釜萢:そもそもサーフィンやスケートがファッションとの結びつきが強いことが大きいと思います。例えばカリフォルニアに住んでいる人たちは、海にウィンドブレーカーを着て遊びに行かない。いつも通りのオシャレな格好をして遊びに行く感じで、「グリーンルーム」にはオシャレをして来てほしいですね。
WWD:オフィシャルTシャツの着用者はあまり見かけませんが?
釜萢:やっぱり同じTシャツを全員が着ているとどうしてもダサく見えてしまうんです。だから「グリーンルーム フェスティバル’18」だったら“18”をモチーフにアーティストに限定200着で作ってもらうなど、大量生産は行っていません。
WWD:9月には初の試みとして「ローカルグリーン」を開催しますが、狙いは?
釜萢:会社として海をきれいにするビーチクリーン活動をやっているのですが、山に雨が降って川を流れて海に注ぐ循環で、海だけではなく山もきれいにする必要があると気付いたんです。「グリーンルーム」でも数年前からプラスチックのカップを禁止にするなど、サステイナブルな取り組みを行ってきましたが、フェスはこういった取り組みを知ってもらう場としてかなり効果的です。そこで海を生業にしている分、何か返したいという思いから5月の「グリーンルーム」は“海”、9月の「ローカルグリーン」は“山”でと開催を決めました。動員数は1日5000人の計1万人を予定していて、今後10年で徐々に増やしていきたいと思っています。
■LOCAL GREEN FESTIVAL
日程:9月1、2日
時間:11:00〜
会場:横浜赤レンガ倉庫野外特設会場
住所:神奈川県横浜市中区新港1-1
入場料:2日通し券 1万円 / 1日券 6000円
出演アーティスト:大橋トリオ、MONKEY MAJIK、Yogee New Waves、DATS、LUCKY TAPES、大沢伸一、Def Tech、NICO Touches the Walls、MURO、Licaxxxなど