今春夏(2018年1~6月)の百貨店で何が売れたかという取材の中で、レザーグッズを扱う特選売り場のバイヤーやバッグ平場のバイヤーから頻繁に聞かれたのが、「小型の財布がとにかく売れる」という声だ。その火付け役は「バレンシアガ(BALENCIAGA)」。手のひらサイズの三つ折り財布、“ペーパー ミニ ウォレット”がヒットし、今や他のブランドも同様の財布を品ぞろえしている。
小型財布が売れ筋となる前を思い返すと、2010~13年頃に女性の間で長財布がトレンドとなり、以来長財布が財布カテゴリーの売り上げをけん引してきた。当時は「エルメス(HERMES)」などのラグジュアリー・ブランドはもちろん、神戸発のレザーグッズブランド「アタオ(ATAO)」などの長財布を持っている人もショップやレストランで多数見掛けた。「稼ぐ人はなぜ、長財布を使うのか?」(サンマーク出版)といった本も出版され、長財布ブームを後押ししていた。
この1~2年ほどで、財布の売れ筋は長財布から小型へとすっかり移行。その理由について、取材したほとんどのバイヤーは「トレンドとして小型のバッグに注目が集まっているので、必然的に財布も小型化している」と分析していた。新しいヒットが生まれたことは素晴らしいが、小型化による単価の低下は売り場にとって頭の痛い問題だ。たとえば「バレンシアガ」の“ペーパー ミニ ウォレット”の価格は4万1000円から。ラグジュアリー・ブランドの長財布だと10万円以上の商品もあったことを考えると、かなり開きがある。単価の落ち込みへの対応策としては、「スマートフォンケースやステーショナリー関連など、スモールレザーグッズの品ぞろえを広げてカバーする」(阪急うめだ本店1階バッグ売り場コンテンポラリーゾーン)といった声も挙がった。
また、「バッグの小型化だけが小型財布のヒットの理由ではない」という声も興味深い。「バレンシアガ」「ミュウミュウ(MIU MIU)」などが出店する西武渋谷店特選売り場の齊藤智子・婦人特選部部長は、「最近の若者にとって、従来の財布の機能がそもそも不要なのでは?」と話す。同店は中国人客の購入比率が高いが、彼らが使うのはもっぱら「ウィーチャット ペイ(WeChat Pay)」「アリペイ(Alipay)」などのスマートフォン経由の電子決済だ。日本でも電子決済拡大の動きがとみに強まっているが、「本格的にキャッシュレス社会が到来したら、財布はもう売れない。とても怖い」と齊藤部長。その日のために、財布に代わる新たなアイテムを今から考えておく必要がある。
バッグやレザーグッズの売れ筋を含め、今春夏の百貨店でヒットした商品やブランドについては、「WWDジャパン」8月27日号で詳しく紹介している。