ファッション

「イケア」バッグのパロディーがバカ売れ パリへの切符を手にしたLA発ストリートブランド「ノーウッド」とは?

 「俺は99セント(約110円)の『イケア(IKEA)』バッグで30万ドル(約3330万円)稼いだ。そのおかげで今がある」ミシンの音が鳴り響く工場でそう語るのは、2017年にロサンゼルスで「ノーウッド(NORWOOD)」を立ち上げたアリ・クレシ(Ali Qureshi)創業者だ。

 「イケア」バッグでビジネスに追い風を受けたクレシ創業者は、ビジネスパートナーで「ノーウッド」のプロダクション・マネジャーでもあるソナ・ガダーニ(Sona Gadani)と共に、ロサンゼルスのダウンタウンに工場をオープン。現在40人ほどの従業員を抱え、卸先はアメリカン ラグ シー(AMERICAN RAG CIE)やロサンゼルスのワンダーセット(WANDERSET)からイタリアのルイーザヴィアローマ(LUISAVIAROMA)、そして日本では渋谷のモータル(MORTER)やフレッドシーガルジャパン(FRED SEGAL JAPAN)などのセレクトショップまで拡大している。

 さらに、カニエ・ウェスト(Kanye West)やシンガーのJ・バルヴィン(J Balvin)、ヒップホップトリオのミーゴス(Migos)ら大物アーティストも顧客に抱えるようになった。3シーズン目となる2019年春夏コレクションはパリで発表。10月には日本でポップアップの開催を目指し、バーニーズジャパン(BARNEYS JAPAN)と商談を進めている。20年には「ティンバーランド(TIMBERLAND)」とのコラボ発売を予定している他、ミュージシャンでデザイナーのタズ・アーノルド(Taz Arnold)のブランド「ティサ(TISA)」とのコラボの話もあるという。

 1年前、普通にサンプルを運ぶのに使ったり、スーパーでエコバッグとして使っていた「イケア」のバッグをリメークした理由についてクレシは「ただ暇だったから。アシスタントのパブロ・ロメロ(Pablo Romero)を待っていて、たまたま持っていたバッグを破いてフーディーにしてみたんだ。みんなには『ありえない』って言われたけどね」と説明する。

 アシスタントのロメロも「あの時は意味不明だったけど、ラッキーなことにクレシには直感とガッツがあった」と振り返る。その直感が当たったのか、99セント(約110円)のバッグから作った140ドル(約1万5000円)のフーディーは注目を集め、1日で4万6000ドル(約510万円)を売り上げた。

 「『イケア』にバッグを大量に買いに走ったよ。ある時女の子に『あなたたちがやってること知ってるわ。これを服に変えてるんでしょ』って話しかけられた。『違うよ。これはこのバッグが大好きなおばあちゃんのためなんだ』って言い訳したけど(笑)」とクレシ。しかし「イケア」からクレームが入ったことは1度もないという。

 「イケア」からおとがめがなかったことに加え、ラグジュアリーブランドがストリートウエアに近づいてきたタイミングもよかったとクレシは分析する。「ヴァージル(Virgil)は今や『ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)』にいる。ラグジュアリーブランドはストリートキッズがお金を垂れ流すこの市場が欲しくてたまらないんだ。そして俺らを取り込んでこの市場の一部になろうとしている」。

 クレシがこう語るのは、7年前にも自身のアパレルブランド「カラヴァッジオ(CARAVAGIO)」を立ち上げたが、早々に頓挫した経験があるからだ。当時は「ハンドレッツ(THE HUNDREDS)」や「ダイアモンドサプライ(DIAMOND SUPPLY)」がストリートシーンで存在感を強めていた。「あの頃はフェアファックス・アベニュー(Fairfax Avenue)に店舗がないとうまくいかないと言われてた時代だった。でも今も『オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)』や『フィアー オブ ゴッド(FEAR OF GOD)』でない限りうまくいかないとか、当時と変わらないことを言われているのが意味不明だ。俺の父親には製造業というバックグラウンドがあった。俺もその道に進みたかったが何しろ資金がなかった。そんな俺でも99セント(約110円)のバッグからここまで来れたなんておかしな話だよな」と話す。

 「ノーウッド」のブランド名は、クレシが生まれ育ったストリートの名前から取った。「俺はこのストリートでたくさん学んだんだ。ストリートが俺を作ったと言ってもいい。白人なのか黒人なのかとか差別的なことも聞かれたり、金がなくて『ヴァンズ(VANS)』のシューズでバスケをしていたら笑われた。だから翌年“エア ジョーダン 1(AIR JORDAN 1)”を買ってもらってそれでスケボーした。でも今ではそれがクールになってる。兄貴のお下がりのニルヴァーナ(Nirvana)のTシャツとか、俺たちがお金がなくてそれしか買うことができなかったものに、今みんなが夢中になって大金をはたいているのが面白い。だからここで学んだことが今活きているんだよ」とクレシは、自身の少年期と今を比べて語った。

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