イタリアのミレニアル世代によるスタートアップ企業が免税アプリ「スタンプ(STAMP)」を開発した。このアプリを利用して店舗で商品を購入すると、免税申請に必要な書類はすべてデジタル化され、そのデータをアプリ内に保存できるという。また、付加価値税(VAT)が発生せず、税抜き価格で購入できるので税金還付はその場で完了するという。免税サービス仲介業者や外貨両替に支払う手数料も発生せず、出国時に空港で免税申請のために時間を取られることもない。また、旅行者が手数料分の浮いたお金を街中の小売り店で使うことも容易に想像でき、イタリア全土の観光業の活性化につながるのではないかという。
このアプリを開発したワーグナー・エレウテリ(Wagner Eleuteri)とミケーレ・フォントラン(Michele Fontolan)は長年の友人で、2人とも国外在住経験がある。エレウテリはニューヨークで家業の宝石商を手掛け、フォントランはドバイでウーバー(UBER)に勤めていた。2人は国外で買い物をするたびに、免税申請と還付金受け取りの面倒さにうんざりしていた。店舗では免税申請書類の準備に非常に時間がかかり、出国時には空港で長蛇の列に並ばなければ還付金を受け取れず、その手続きのため仲介業者に手数料を払わなくてはいけない。とにかく時間がかかる。
この現状を打破するには、2人はデジタル化こそが解決策だとにらみ、ミラノを拠点に2年半前に起業を決めた。エアビーアンドビー(AIRBNB)やスーツサプライ(SUITSUPPLY)などの企業での経験を持つ仲間も加わり、ドバイや香港の投資家からの資本提供を受けて本格始動した。
「スタンプ」は無料アプリとして4月末に正式に公開され、イタリア国内で利用されている。アプリのダウンロード回数は2000回で、国外のユーザー数は500人。中国、中東、スイスからのミレニアル世代のユーザーだ。イタリア国内では200店舗が「スタンプ」のサービスを利用しており、ファッション、デザイン、飲食、宝石商などの個人事業主やセレクトショップが多い。年末までにラグジュアリーブランドの参加も予定されており、イタリア以外のヨーロッパ圏内でのビジネスネットワークの拡大を考えている。目指すのは「スタンプ」アプリが利用できる免税地区を作ることだという。ミラノに近い避暑地コモでは、すでに60店舗が同アプリを利用しており、“コモの免税地域”ができつつあるという。
創業者の1人であるエレウテリは、すべては顧客体験の向上のためだという。「ハイエンドジュエリーを扱う宝石商を経営している者として、購入する商品の価値にふさわしいサービスを顧客に提供するのは当然のことだ。従来の免税手続きのサービスは、ラグジュアリーブランドでの買い物という楽しい体験を損なう」と語る。また「どのブランドも空港内の免税コーナーで場所を取り合っているが、街中の店舗こそブランドが力を入れている場所だ。店舗は品ぞろえがいいのだから、観光客も多く訪れる。店舗でも空港と同じ免税サービスを提供できればいい」という。
「スタンプ」は現在無料アプリだが、来年にはプレミアム版の公開が予定されている。今後も400ユーロ(約5万1200円)までの購入にはアプリの利用は無料だが、それを超える購入金額には10ユーロ(約1280円)の、5000ユーロ(約64万円)以上には20ユーロ(約2560円)の手数料を設定して収益化を図る。
「スタンプ」のデジタルプラットフォームは時代の流れにも合っているようだ。イタリアの税関・専売庁は税関手続きのオンライン化を推進しており、国外からの観光客の免税ショッピングには電子インボイスの発行を義務付けて、9月1日に施行された。