創業デザイナーの自死という悲しい出来事は記憶に新しいが、「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)」が新たな一歩を踏み出した。デボラ・ロイド(Deborah Lloyd)前ケイト・スペード社長兼チーフ・クリエイティブ・ディレクターのクリエイション面における後任を務めるニコラ・グラス(Nicola Glass)=クリエイティブ・ディレクターによるファースト・コレクションのお披露目だ。会場は、ニューヨーク市立図書館の一角。全体を淡いピンクに彩り、新たな幕開けとなった2019年春夏コレクションを発表した。
コレクションは、デボラ時代にどちらかといえば「カワイイ」にシフトした「ケイト・スペード ニューヨーク」の振り子を、創業デザイナーに通じる「愛らしい」に戻すかのようだった。
「愛らしい」は、単純に「カワイイ」のではなく、「ちょっぴりヘンだけど」とか「“おてんば”っぽくて」とか「昔懐かしくて」、「カワイイ」というニュアンスだ。グラスは、その雰囲気を汲み取るのが上手い。プルオーバーのフリルシャツは大きなパフショルダーで、ウエストのリボンを絞るとなんだか違和感あるプロポーション。ボウタイブラウスと合わせたドレスは、60年代や70年代を思わせるレトロなフラワープリントで「美しい」や「可憐」というより「キュート」。カラーパレットも、ピンクは加えつつラベンダー基調でフツーとは一味違う。周囲の目を気にして“愛され系”を狙うのではなく、ちょっぴりヘンでも自分が着たい服を、着たいように着るというピュアなマインドを重視した。
マイケル・コース(MICHAEL KORS)社のアクセサリートップを務めたグラスによるバッグ&シューズは、レトロなフラワープリントやバイカラーのスペードの留め金などが印象的だが、形そのものはベーシック。スペードを重ねたカゴバッグやファブリックのファスナー付きトートは、収納力があって実用性も高い。多少、ベーシックすぎて物足りない印象もあるが、「ケイト・スペードニューヨーク」の初代バッグ“サム”だって形はきわめてベーシックだ。これも、原点回帰の象徴だろう。
デボラ時代に比べ、意思がハッキリしていて、正直に言えば若干好き嫌いが分かれそうなコレクションだ。経営者でもあったからビジネスとのバランスをとることに長けていたデボラに比べると、クリエイション優先にシフトしている。バランスをとる上で重要なのは、アクセサリー。ショーには登場していない、多彩なバリエーションがあることに期待したい。
フィナーレに登場したグラスは、「愛らしい」を体現するような女性だった。純白のコットンドレスに身を包み、正直ちょっぴり居心地が悪そうに、緊張しながら初の大舞台に登場した。多分、相当の人見知りだ。利発で物怖じせず、ビジネスとクリエイションの双方に精通していたデボラと比べれば、パーフェクト・ウーマンではないのかもしれない。でも、それが「愛らしい」。心に秘めるものを勇気を持って表現できれば、きっと本来の「ケイト・スペード ニューヨーク」が再来するだろう。