日本製の代表的なタオルブランドと言われて「今治タオル」を思い浮かべる人は多い。「今治タオル」といえば今治タオル工業組合が定めた独自品質基準をクリアした商品だけに与えられる称号だが、現在の「今治タオル」の歴史は意外にも浅く、2006年にクリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和にリブランディングを依頼したことで、大幅な知名度向上に成功したという背景がある。今治タオル工業組合によれば、04年に36.6%だった認知度は14年時点で76.9%だ。いわく、「“ワインのシャトー”のようにソムリエが選ぶタオル」。実際に07年には「今治タオル」を提案できる知識を持つ人を認定する“タオルソムリエ”なる資格も生まれた。
リブランディングの過程で12年、卸ではなくタオルソムリエが直接顧客に商品を届ける場を作るという目的の「今治タオル」南青山店が生まれた。今治本店、今治国際ホテル店に次ぐ、県外唯一の旗艦店だ。今治タオル工業組合とは別組織の株式会社である今治繊維リソースセンターが運営をし、常時20以上のメーカーの商材を扱う。もちろん物件探しから設計、内装、商品パッケージまで全てを佐藤可士和がプロデュースしている。
遠藤久美子「今治タオル」オフィシャルショップ統括店長は、「タオル業界でここまでブランディングをし、平台を作っているような場所は他にない。実際に店頭に1〜2時間いるような顧客もいて、毎月売り上げ1000万円はくだらない」と自店の特徴をあげる。実際にタオル以外にもベビー用品やタオルケット、法人関連のノベルティーなど幅広い商材が売れており、90%はギフト需要だそうだ。もちろんセールはしない。
立ち上げから店頭を見てきた遠藤店長は現状について、「まだまだブランディングの真っ最中で、さらなる認知度の拡大やインバウンド対応の強化を目指す。これからの課題は『今治タオル』というブランドに加えて、メーカーごとの認知度を上げること」だという。
何より最大のミッションは「作り上げた『今治タオル』の認知度・期待に負けない商品力を維持すること」だ。顧客とメーカーを直接つなぐ直営店の販売員はまさに最後の砦で、顧客の意見をメーカーに伝えたり、品質に些細な変化を感じ取った場合にはメーカー側に再検査の依頼をすることもあるそうだ。
そもそも、売れ筋のバスタオルの平均単価は5000円程度。生産コストや店頭での接客時間を考えると、決して利益効率がいい商材ではない。今後「顧客を今治市へ送客するような施策も考えたい」と遠藤店長が話すように、直営店での販売に限らない「今治タオル」ブランドの活用案もあるようだ。リブランディングによって生まれ変わった「今治タオル」は10年を経て、ブランド力維持とさらなる認知度拡大に向けた第二フェーズへ差し掛かっているのかもしれない。