エディがベルジェとドヌーヴに捧げた「サンローラン」
「サンローラン(SAINT LAURENT)」のエディ・スリマンの進退について噂は絶えませんが、個人的にはエディに続けて欲しいと思っています。2月にロサンゼルスで開かれたショーのライブ配信を見て、「『サンローラン』にはエディしかいないのではないか?」という感想を持ち、さらにパリで開かれた2つの展示会で服を近くで見てそう思っています。
LAのショーはまるで、「『サンローラン』をできるのは自分しかいない!」とエディが全身で叫んでいるような印象でした。最後にチラッと登場したエディは髪を伸ばし、若い頃のムッシュ・サンローランをほうふつとさせ、少しギョッとしたほどです。
オートクチュールのような存在感を放つプレタポルテ
LAは、2016-17年秋冬のメンズに加えてウィメンズの“パート1”の発表であり、パリの展示会で全サンプルを見ました。プレタポルテとのことですが、近くで見るとほぼオートクチュールのような存在感。そして……正直に言うと、少々落ち込みました。なぜかって?それは、疎外感をおぼえたからです。服の向うには、エディと彼が認めた顧客から成り立つ小さく濃厚なコミュニティーが透けて見えて、例えば目の前のスモーキングジャケットを着たとしてもそのコミュニティーにはどうしたって入れない。入らずしてこの服は語れない、そう感じたからです。
なぜエディはLAを拠点にするのか?パリ嫌いとも、ムッシュにとってのマラケシュがエディにとってのLAだとも言われていますが、それ以上に今のLAにはハリウッドスターの2世など、おしゃれかつ財力があり、このオートクチュール級の「サンローラン」をリアルに着る顧客がいます。そのスノッブなコミュニティーから生まれてくる喧噪がクリエイションの源泉の一つとなっているのでしょう。
そして思い出したのが、昨年の夏、パリのピエール・ベルジェ イヴ・サンローラン財団で開かれた「イヴ・サンローラン1971」展です。
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展覧会は、1971年に「Liberation40」と題して発表されたコレクションにフォーカスしたものでした。40とはナチス・ドイツに占領されていたパリが解放された1940年を意味します。占領時代をほうふつとさせるデザインが物議を呼んだ、当時の喧噪が伝わってくる展示内容でした。これをきっかけに改めて60年代後半から70年代前半の「イヴ・サンローラン」のアーカイヴを見直し、いかにスキャンダラスで、スタイリッシュな存在であったかを再確認しました。
エディの「サンローラン」に対する評価も、就任当時から賛否両論でした。往年の顧客にとってロック&ストリートテイストが強い今の「サンローラン」はそもそもスカート丈が短すぎて着用すらできず、顧客である自分が拒絶されたような感想を抱くのも当然だったと思います。頑ななまでにそのスタイルを貫くエディの姿勢は、ジャーナリストからの批判を物ともしなかった71年のムッシュと重なります。エディが、就任以来目指してきたのは、ラグジュアリー・ブランドとしての「イヴ・サンローラン」ではなく、70年前後のスリリングな「イヴ・サンローラン」なのでしょう。
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エディと「サンローラン」の契約更新は3月末。果たしてケリングのフランソワ・アンリ・ピノー会長兼最高経営責任者はどんな判断を下すのか?その話題の渦中で3月7日、クチュールハウスを舞台に2016-17年秋冬コレクションパート2が発表されました。
同ハウスは昨年夏にパリのユニヴェルシテ通り24番地に開かれたもので、“エディが認めた人だけに作る”非常にパーソナルなオートクチュールのサロンです。パート2もプレタポルテと呼ばれてはいますが、近くで見ると明らかに過去の「イヴ・サンローラン」へオマージュを捧げたオートクチュールでした。
演出はかつてのオートクチュールを再現し、音楽はなく、1977年から2002年のクチュールでアナウンスを務めたベネディクテ・ドゥ・ジネスタス自身がルックナンバーを読み上げてショーを進行しました。ひとつひとつの椅子に金プレートがつき、招待客の名前が彫られています。これもクチュールスタイルですが、モデルの登場口にある、一番良い席は誰のものだったと思いますか?
ピエール・ベルジェとカトリーヌ・ドヌーヴ、ベティ・カトルーのものでした。
ベルジェは生涯ムッシュ・サンローランを支えたパートナーであり、カトリーヌ・ドヌーヴとベティ・カトルーはムッシュのミューズです。
その椅子を見た時、「このショーは、エディからベルジェとドヌーヴ、ベティに捧げるショーだったのだな」と理解しました。極論すれば他の人たちはどうでもいい、若かりし日のムッシュを支えた人たちに認めてもらえるならば。そんな思いがエディにはあったのではないでしょうか?赤いハート型のファーのコートが登場した時、ベルジェは立ち上がり拍手を送り、フィナーレでエディはベルジェに駆け寄ったそうです。それは彼にとって何よりのご褒美だったでしょう。
エディとベルジェとドヌーヴ、ベティの関係性の中に自分が入れるとは思いません。でも、展示会で覚えた疎外感は、そんなショーでのエディの姿を聞くと消えました。
ファッションショーにおけるメディアの役割は、新しい時代を築こうとするデザイナーたちの仕事に立ち会い記録し、客観的に伝えてゆくこと。コミュニティーの内側に入らないからこそ、むしろできることがある。その面白さを思い出させてもらいました。もちろんそれは「サンローラン」のみならず、どんなブランドに対しても同じです。
時代は今、1970年前後の「サンローラン」が象徴するような、エッジの効いたクリエイションを渇望しています。ビジネスに寄り過ぎたファッションをもう一度、愛に溢れ、スリリングなものへ。そんな胎動を今回のパリコレで痛感しました。変わることを恐れず進むデザイナーは誰なのか?その話は「WWDジャパン」本紙で!
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