いま「ストーンアイランド(STONE ISLAND)」が絶好調だ。1982年の創設以来、機能性と素材にこだわり、職人気質なモノ作りと独自のテクノロジーでファンを獲得してきたが、2018年の売上高は280億円を見込んでおり、これは17年比33%増、16年比80%増と、5年で売上高は2倍に拡大。取り扱いのある全ての国とカテゴリーで前年実績をクリアし、日本でも前年比20%増を達成するなど、驚異的な数字を叩き出している。
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また、人気ラッパーのドレイク(Drake)から若手ラッパーのヴィンス・ステープルズ(Vince Staples)、元オアシス(Oasis)のリアム・ギャラガー(Liam Gallagher)、16歳の世界的ファッショニスタのレオ・マンデラ(Leo Mandella)、英フットボールクラブ「マンチェスター・シティFC(Manchester City FC)」のジョゼップ・グアルディオラ(Josep Guardiola)監督まで、世代やジャンルを超えたアイコンたちがこぞって着用して人気にいっそう火がつき、数字を支えている。
9月14日には好調そのままに、世界22店舗目でアジアとしては3店舗目となる日本初の旗艦店を南青山にオープンした。場所は「ヴェルサス ヴェルサーチ(VERSACE VERSACE)」青山店の跡地。付近には「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」やベイプエクスクルーシブ青山(BAPEXCLUSIVE AOYAMA)、「アンリアレイジ(ANREALAGE)」が店を構える好立地だ。カルロ・リヴェッティ(Carlo Rivetti)=ストーンアイランド会長兼クリエイティブ・ディレクターいわく、同店舗は「日本文化にオマージュを捧げた」という。オープンに合わせ来日したカルロ会長に、好調の理由から「シュプリーム(SUPREME)」や「ナイキラボ(NIKE LAB)」とのコラボがもたらした影響についてまで話を聞いた。
WWD:売り上げが非常に伸びていますが、トップの売り上げはどこの国でしょうか?
カルロ:もちろんイタリアさ!ブランド発祥の地であるイタリアは最重要市場で、2番目がイギリス、3番目がオランダと、全体の8割をヨーロッパが占めている。
WWD:アメリカにも店舗がありますが。
カルロ:確かに2年前からロサンゼルスとニューヨークに店舗はあるが、ヨーロッパと比べるとまだまだ市場は小さい。北アメリカというくくりでは、カナダが好調だ。北方ということもあり、防寒など機能性に優れたウエアが可能性を秘めている。
WWD:なぜこのタイミングで東京出店を決め、この場所を選んだのでしょうか?
カルロ:日本での売り上げは非常に伸びており、重要性が増してきている。東京の出店候補地は複数あったが、最終的に南青山に決めたのは若い人が多く集まる場所で、若い世代に訴求できると考えたからだ。
WWD:東京店は上品な雰囲気の内装になっていますが、独自のこだわりは?
カルロ:もちろん日本をリスペクトした内装にしている。石床はビシャン仕上げ(石の表面をハンマーでたたいて平たくする技法。凹凸が少ない綿密な仕上がりとなり、防滑性にも優れる)を施し、試着室も日本人のサイズに合わせ、のれんを垂らしている。
あとは店内のコンクリートだ。われわれヨーロッパ人から見ると、日本のコンクリートは本当に美しい。だから店内はコンクリートがよく見えるような設計となっている。今世界に22店舗を構えているが、店舗はブランドの考えが伝わる空間であると考えており、どの店舗もそれぞれオリジナリティーがあり、ブランドのDNAを感じるものになっている。
WWD:今後アジアとアメリカの出店は加速するとみていいでしょうか?
カルロ:店舗を次々にオープンするといったことは考えていない。適切な時に、適切な場所にオープンする。特に日本では東京店がオープンし、これからが大切。東京店が機能するかどうかを見極める必要がある。
WWD:店舗にかなり力を入れているようですが、ECはどうでしょうか?
カルロ:ECも店舗と同じくらい重要だ。店舗で商品を見た時、気に入ればすぐに買えばいいし、家に帰って欲しくなればECで買えばいいというように、ECは購入の機会を増やすことができる。ちなみにヨーロッパでは日本と違ってECはカタログのような使い方をすることが大半で、買う際には店舗を訪れることが多い。
WWD:単刀直入に、好調の原因は若年層の囲い込みに思えます。
カルロ:イタリアでは1980年代から認知されているが、その頃から支持してくれている顧客は、私のように年をとり、太ってしまった(笑)。そこで8年ほど前から、若い人たちを中心にコミュニケーションをとるようにした。これまで支持してくれていた昔ながらの顧客も大切にしながら、若年層の顧客を獲得できたことが大きいだろう。
WWD:コミュニケーションというと、やはりSNSでしょうか?
カルロ:それも1つだ。インスタグラムにフェイスブック、ピンタレストなどさまざまなSNSを駆使しているが、共通していえるのは“過大な広告を打たず、主に商品に関する投稿だけをする”ということだ。われわれは商品ありきのプロダクトカンパニーだからこそ、ひとつひとつの商品に誇りを持ち、その商品についてしっかりと説明する必要がある。その点SNSは動画や写真を投稿し、生産工程なども発信できる。
WWD:若年層とのコミュニケーションとは、意見を聞いてアイテムを用意するなどでしょうか?
カルロ:そういったことは全くしていない。若年層をフォローするために特別な商品を生産するのではなく、あくまでこれまでと同じ商品を伝え続けている。市場に好かれるための商品を作らなくても、われわれがいいと思った商品を作れば、これまでの顧客も、若年層を中心とした新規の顧客も獲得できると考えている。ただ例外が1つだけあって、かなり前の話になるが、豊田社長(日本で輸入販売を請け負う豊田貿易の豊田隆二・社長)から「シャツの裾を短くしてほしい」といったリクエストがあった。これを聞いたとき、日本をはじめとしたアジア諸国では短い丈が好まれているものだと思って作ったのだが、予想に反してヨーロッパでの反響が大きかった。ナイスアイディアだったよ。
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結局好調の要因はわれわれの製品ーーそこに尽きる。リーマンショックなど、経済状況が悪くなったときに多くの会社がリサーチや開発への投資を中止していたが、われわれは続けた。結果として、新しい生地や加工技術が生まれた。そして、それを昔ながらの顧客も若年層も支持してくれた。例えば、熱によって色が変わる感熱糸を使用したアイテムは89年から販売しているが、今回初めて感熱レザーの加工に成功した。この商品を見せるとほぼ100%生産工程を聞かれる。その時にしっかりと説明できるかどうか、それも大切にしている。
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WWD:最近、ラッパーやストリート界隈の人々が「ストーンアイランド」を着用しているのを見かけます。これは「シュプリーム」や「ナイキラボ」とのコラボや、エロルソン・ヒュー(Errolson Hugh)の「アクロニウム(ACRONYM)」とのコラボライン“シャドウプロジェクト(SHADOW PROJECT)”を始動したことがきっかけだと思いますが、ブランドの転機としてはどうだったでしょうか?
カルロ:そうとも言える。「シュプリーム」と「ナイキラボ」のコラボは、本当に素晴らしい結果だった。ナイキは世界的に大きな会社で、「シュプリーム」は1人の人間が絶対的な力を持ったクリアな会社で、どちらもわれわれとまったく違う会社だったことが、コラボレーションにいい影響をもたらした。彼らとのコラボレーションをはじめいろいろな取り組みをしたことで、若年層だけでなく、アーティストやフットボールプレーヤーにも着てもらえるようになった。
(日本の)「ポーター(PORTER)」とのコラボはイタリアで特に好評だった。これについては理由があって、いつも言っているのだが、日本とイタリアには多くの共通点があるからだ。南北に縦に長いこと、東京とミラノの気候がほぼ同じであること、世界一といえるほど美味しいものに溢れていること、そして「ストーンアイランド」が大好きだということさ!(笑)。
WWD:ストリート界隈に支持されることで、以前までのイメージと異なり、昔ながらの顧客が離れる可能性もあります。
カルロ:これについてはいろいろと意見があるが、私はいいことだと思っている。常に変わり続けるファッションに対し、「ストーンアイランド」は変わらないことが強みだ。ファッションというのは波のようなもので、同じことを信じてやり続けていたら、ファッションの方がわれわれに近づいてきた。今ストリート界隈の人々が好いてくれているのがそれを象徴している。“変わらずとも好かれる”ということは、とてもいいことなんだ。
それに若年層に支持されるブランドになると、「自分が着ているブランドを若い人たちも好んでいる」と、昔ながらの顧客がよろこんでくれる。ブランドとしてはこれ以上ないうれしいことだ。