フランスの人気ラッパーのネクフ(Nekfeu)が、「アニエスベー(AGNES B.)」がセレクトした音楽を聴くことができるキャンペーン“agnes b. RADIO”のイベントに合わせて来日した。9月11日にはOKAMOTO'Sのオカモトレイジや、Young Juvenile Youthのゆう姫らと共に「アニエスベー」青山店でライブパフォーマンスを行った。
今日本語を勉強中というネクフは2年前に初めて来日し、計7回も日本を訪れている親日家。彼が手掛ける音楽やウエアを発表するレーベル「センズ(SEINEZOO)」は、「ドラゴンボール」の“仙豆”(1粒食べると傷が治るという豆)にちなみ、Seine(セーヌ川)とZoo(動物園)をあてた造語だ。16年にはクリスタル・ケイ(Crystal Kay)、ゆう姫とコラボレーションした楽曲をリリースしている。10月末以降には「アニエスベー」とのコレクションを発売する予定だ。ネクフに音楽やファッション、日本のことなど気になる質問を尋ねた。
WWD:この2年間で7回来日したそうだが?
ネクフ:2年前に初めて来日した。僕はパリ育ちだが両親はギリシャ人で、日本はフランスとギリシャの次に好きな国。本当に移住したいと思っているくらい(笑)。この2年間で東京の他に、京都や大阪、青森、茅ケ崎、長野などいろんな場所に行ったよ。
WWD:出演した「アニエスベー」のイベントは“On aime la musique!!(音楽大好き!!)”がテーマだったが、好きなアーティストと影響を受けたアーティストはだれ?
ネクフ:僕の場合、影響を受けたアーティストと好きなアーティストは全く異なる。ラップだったら、影響を受けたのは幼い頃からずっと聞いてきた2PACやEminem、50Cent。フランス人ラッパーだったらMafia K'1 Fry。彼らの音楽性はもちろん、大人数のクルーの中で独自にそれぞれが活動しながら協業もする自由なスピリットが好き。一番好きなアーティストを答えるのは難しいけれど、ボブ・マーリー(Bob Marley)だね。
WWD:アニエスベー本人の印象は?
ネクフ:天才。自由な精神を持つカリスマ的存在で、僕もいつか彼女のようになりたいと思う。デザイナーでありながら、音楽や絵も楽しんで、ある時は小説家、ある時は映画監督にもなる。「アニエスベー」のブランドはアイコニックなTシャツやカットソーがあり、トレンドを追わない独自のスタイルを確立している。でも彼女はオープンマインドで、いつも話題のコラボレーションを仕掛けていている。個人的にファッション業界はクローズドなイメージがあったけど、「アニエスベー」は他とは異なっている。
WWD:「アニエスベー」とのコラボコレクションを発売する。
ネクフ:アニエスベー本人が僕のライブに来てくれて、パフォーマンス中に撮った写真をTシャツにしてくれたんだ。その後アニエスベーとともに、チャリティーイベントを一緒に計画して親しくなり、今回のコラボコレクションを作ることが決まった。クルーではすでにブランド「センズー」をやっているけれど、フレンチブランドと取り組むことで、僕らの可能性も広がると思った。アニエスベーは僕らにデザインを自由にゆだねてくれたから、好きだった「アニエスベー」の1990年代のコレクションをベースに “着たい服”を作らせてもらったんだ。
WWD:ネクフらしいファッションスタイルとは?
ネクフ:ステージに立つときは派手な衣装を着るけれど、普段は控えめ。今日着ている「アニエスベー」とのコラボレーションのように黒いTシャツやスエット、フーディー、デニムが多くて、僕のクローゼットは真っ黒なんだ。夏でも暑苦しいオールブラック。黒はスマートだし、クラッシーだと思う。一方で、ロサンゼルスに行くときは現地の雰囲気に合わせてカラフルな服を買うこともあるけど、パリに帰ったら絶対着ないね(笑)。あと変装するのにちょうどいいキャップはいつもかぶっている。自分のブランド「センズ」のものが多いけど、渡航先でお土産のようにキャップを買うようにしている。
WWD:「センズ」について教えてほしい。
ネクフ:もともとは2013年に、自分たちのレーベルに必要な服をデザインしたいとスタートさせたが、今ではシステムを含めてエシカルなブランドを目指して真剣に取り組んでいる。構想中の友人のクリエイターとのコラボは100%サステイナブルなモノ作りにこだわり、オーガニックコットンやプラスチックをリサイクルした素材、天然染料を使用している。
WWD:ベジタリアンだそうだが、なぜ?
ネクフ:動物が大好きだから。幼い頃から動物のドキュメンタリーを見ていて、彼らが世の中のシステムによって傷つけられていることを知ってとても悲しくなった。そのためには自分も変わらなければならないと8、9歳頃にベジタリアンになろうと決めたんだ。動物を食べないし、レザーの服も着ていない。
WWD:ファッション業界でもファーの使用を廃止するブランドが増えている。
ネクフ:リアルファーを使うブランドとは仕事をしないと決めている。アニエスベーにも僕とのコラボにはレザーを使わないようにお願いしたんだ。
WWD:スタイルアイコンは誰?
ネクフ:架空の人物だけれど、「GTO」の鬼塚英吉は本当にクールだと思う。僕を含め、80~90年代に育ったフランス人は皆日本の漫画やアニメに影響されているよ。一番好きな漫画は「ドラゴンボール」だね。でも僕の本名はケンだから「北斗の拳」も好き(笑)。
WWD:昨年カトリーヌ・ドヌ―ヴ(Catherine Deneuve)と共演した映画「女神よ、銃を撃て」で俳優デビューを果たした。
ネクフ:僕はシャイだから、最初は人前で演技をするのに苦戦したけど、カトリーヌや周りのスタッフがいつも励ましてくれて何とかやり遂げることができたんだ。カトリーヌは「今のよかったよ」とか「これは気にしなくていいよ」などといつもポジティブな声をかけてくれたり、たまに僕の髪を直してくれたり、とてもフレンドリーに接してくれた。でも、恥ずかしすぎて自分では絶対にこの映画は観られないんだ(笑)。
WWD:演技とラップのパフォーマンスで異なる勇気が必要?
ネクフ:全く異なるね。ラップは自分で作詞作曲して自己完結するけれど、演技は誰かが作った物語を演じて他人に監督してもらうもの。僕には将来的に映画監督になりたいという夢があって、この映画を通して勉強させてもらった。これまでもMVでは監督経験があるんだ。
WWD:映画監督になったらどのような作品を撮りたい?
ネクフ:夢と現実の間のようなシュールな作品。クルーにも出演してもらって、音楽もこだわりたいね。ドキュメンタリーやアドベンチャー映画もよく見ているから、そういうのもいいかも。ジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch)監督の作品が好きで、「ゴースト・ドッグ(Ghost Dog)」のような作品に憧れる。映画を撮るのは夢の話だけれど、いつか実現させるから楽しみにしていて!